野球
二宮清純「松井秀喜に見る『努力と工夫する』才能」

 巨人やヤンキースなどで活躍した松井秀喜さんが昨年の暮れ、現役引退を発表しました。日米通算507本塁打。メジャーリーグで年間30本以上のホームランを記録する日本人打者は、この先、そう簡単には現われないでしょう。

名将トーリの助言

 メジャーリーグ1年目、ホームベースから逃げていくボールや手許で微妙に変化するボールに手を焼いていた松井さんに時宜を得たアドバイスを行ったのが、当時、ヤンキースの監督だったジョー・トーリさんです。

 トーリさんは松井さんに「もう半歩ほどホームベースに近く寄ったらどうだ!?」と助言します。これを機に、松井さんはスランプから脱出します。たったひとつのアドバイスがもがき苦しんでいた日本人スラッガーを救ったのです。

 松井さんがホームベースへの接近を試みたのは、実はこれが初めてではありません。プロ入り5年目の1997年、春のキャンプでこんな一幕がありました。

 前年、38本のホームランを放った松井さんにはプロ入り初のホームラン王への期待が高まっていました。ところが、キャンプ前半のバッティング練習は散々でした。打ち損じが多く、持ち前の豪快な軌道を描けないのです。どん詰まりの打球も少なくありませんでした。

「昨年38本もホームランを打った反動からなのか、今年はちょっとバッティングが雑になっているな」
「すべて力で解決しようとするから、こうなるんだよ」

 ネット裏に陣取る評論家諸氏のコメントも概ね辛口でした。