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有名人の主治医が語る「命を救った治療」~理想の医師とはいったい何だろうか。著名人5人が全幅の信頼を置く名医が、その治療法と信念を余すところなく明かした。

膀胱ガンの菅原文太を
全摘せずに救った「温存治療」

膀胱の温存治療実績を評価され、『日本癌治療学会』から表彰を受けた経験を持つ赤座医師

 菅原文太(79)が、膀胱ガンの治療を受けたのは'07年のこと。主治医は当時筑波大学臨床医学系泌尿器科教授だった赤座英之医師(現・東京大学先端科学技術研究センター特任教授)だ。

「私が受け持つ前、菅原さんは、都内の別の病院で治療を受けていました。そこでの診断は『膀胱に3~4cmの乳頭状膀胱腫瘍が一つ』というもの。膀胱上皮に発生したガンは、粘膜下層を越えて筋層に達しており、『内視鏡手術でガン組織を削り取ったうえで膀胱全体を摘出する』という計画だったそうです」

 予定通りガンは削り取ったが、ここで菅原は逡巡した。膀胱を取ると、体内から管を引いてビニール製の蓄尿バッグを取り付け、その袋に尿を溜めることになる。もちろん、それで日常生活を送っている人はいるが、自然排尿と較べれば生活の質が低下することは否めない。そこで菅原は、知人である諏訪中央病院の鎌田實名誉院長を通じて東大病院放射線科の中川恵一准教授に相談。そこで赤座医師が膀胱温存治療に取り組んでいると聞き、筑波の赤座医師のもとを訪れた。

「初対面の時は顔色も悪く、今より老けた印象でした。ただ、持参した画像診断資料を検討し、その場で膀胱鏡検査をして温存治療が可能だとお伝えすると、スッと顔に赤みがさし、何歳か若返ったように見えたんです。それほど膀胱を失う恐怖が大きかったのでしょう」

 ここから赤座医師の治療がスタートする。まず、脚の付け根からカテーテルという管を動脈内に挿入し、患部近くから集中的に抗ガン剤を投与する「動注療法」という化学療法を行った。

「通常の化学療法は、静脈に抗ガン剤を投与します。薬剤は最初に全身を回るため、結果的に患部での効果が薄まるうえ、他の正常組織にもダメージを及ぼすことになる。その点、動注療法は患部に向かう動脈に直接抗ガン剤を投与するのでより効果的で、薬剤も少量で済む。また、膀胱ガンはリンパ節に転移しやすいのですが、動注療法なら膀胱を通った薬剤が直後に近くのリンパ節に回るので、万一転移があっても効果を発揮するのです。

 その後、放射線治療を行ったうえで、仕上げに陽子線治療を行いました。これは高速に加速した陽子イオンビームを複数の角度から照射するもので、周囲の組織に影響を及ぼすことなく、狙った部分にのみ放射線を照射できるんです」