「息子と僕のアスペルガー物語」 ライフ
奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第10回】
バレンタインデーの恥ずかしい勘違い

【第9回】はこちらをご覧ください。

昼休みを潰して給食を食べ続けた

 僕は子供の頃、ある言葉や言い回しを聞いたとき、他人とはかなり違う意味に受け取ってしまうことがよくあった。そして、その間違いになかなか気づかず、かなり時間が経つまで自分の解釈が正しいと思い込むのだった。

 小学校2年生のときだったか、給食の時間、担任の先生が僕たち児童に向かって「給食は最後まで食べなさい」と言ったことがあった。僕はこの言葉を、「教室で給食を食べている最後の一人になるまで食べ続けなさい」という意味だと受け取った。さっそくその日から、極端に遅いペースで食べることにした。

 パンもおかずもほんの少しずつ口に運び、ゆっくりと何十回も噛んでから呑み込む。それを何度も何度も繰り返す。やがてクラスメートは給食を食べ終わり、次々と校庭に飛び出して昼休みの遊びに興じ始める。教室に残ってお喋りに花を咲かせる子供たちもいる。その中で、僕だけは昼休みを潰して延々と食べ続け、結局、「最後まで食べている児童」になる・・・。

 そんなことを、僕は毎日繰り返した。そして、もくろみ通り、「教室で給食を食べている最後の一人」になると、計画が達成できたことで大きな満足感を覚えるのだった。昼休みに遊びたいなどとは、みじんも思わなかった。

 ところが数ヵ月後、ひょんなことで、先生の「給食は最後まで食べなさい」という言葉の意味が、「給食は残さず全部食べなさい」であることがわかった。僕は子供心に、自分がひどく無駄なことをしていたように思い、虚しくなった。翌日からは早食いに転じ、ほぼ毎日、クラスで最も早く給食を食べ終えると、昼休みは校庭に出て行くようになった。

 同じ頃、算数の授業中に、先生が黒板に式か何かを書き、それを指差して、「ここに注意しなさい」と強調したことがある。僕は、「ここ」というのを「先生の指先」だと思い込んだ。そこで、先生の指先をじっと見続けた。

 チョークを持ったり、窓を開けたり、尻を掻いたり、鼻をほじったりする先生の指から、僕はずっと視線をそらさなかった。他のクラスメートが下を向いてノートを取っている間も、先生の指を見つめるのをやめなかったので、さすがに不審に思ったらしい先生が「どうした?」と聞いてきた。僕は瞬間的に「何か勘違いをしたらしい」と気づいて、他の児童と同じように下を向いてノートに適当なことを書いた。