韓国大統領選でのソーシャルメディア活用事例から学べること

市川 裕康
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朴槿恵氏のfacebookページ

 2012年の秋から年末にかけて、アメリカ、日本、そして韓国と、立て続けに国の将来を決める大きな選挙が行われました。その都度、選挙活動におけるソーシャルメディアの活用が話題になってきました。私は過去のこの連載で、それぞれの一端をアメリカ日本について取り上げたこともあり、今回は韓国での大統領選挙を終えて注目に値する活用事例、トピックなどを紹介してみたいと思います。

 自民党の安倍晋三新内閣総理大臣はすでに12月21日、インターネットでの選挙活動を解禁したいとの意向を表明しています。それを受けて、2013年夏の参議院選挙の際にはネット選挙活動がいよいよ解禁され、選挙期間中に本格的な活用が始まることが予想されます。そのため、アジアの隣国であり、この春にネット選挙が解禁されたばかりの韓国の事例を掘り下げることは、2013年に向けてとても重要になってくると思われます。

*「ネット選挙解禁に安倍氏意欲 民主も賛同、実現に弾み」(朝日新聞デジタル 2012/12/22)

韓国大統領選におけるソーシャルメディア活用

 12月19日に行われた韓国の大統領選挙において、与党・セヌリ党の朴槿恵(パククネ)氏が、最大野党・民主統合党の文在寅(ムンジェイン)氏を破り、次期大統領に決定しました。「SNSが普及した状況で行われる最初の大統領選」と称された通り、両陣営ともに積極的にツイッター、フェイスブック、ユーチューブ、そして韓国で人気の無料通話アプリ「カカオトーク」などのソーシャルメディアツールを活用し、激しい選挙戦が繰り広げられました。

【1】専門チームの設置
 選挙期間中の報道で注目に値したのは、各陣営がそれぞれ専門のSNSの対策チームを設置し、朴陣営では25名、文陣営では50名のスタッフを擁していたことでした。特に、選挙期間中は劣勢にあり、終盤戦にかけて20代~30代の若者世代からの支持を集めて追い上げていた文陣営は、チームの責任者が「選挙対策の50%はソーシャルメディア戦略に力を注いだ」とインタビューで答えています。

参照:“Leading Candidates Battle It out on Social Networking Services”(動画付)  アリランテレビ, 2012/12/18(Arirang TV: 韓国国際放送交流財団が運営する国際テレビ放送局)

【2】様々なソーシャルメディアツールの活用
 朴槿恵氏のそれぞれのソーシャルメディアのアカウントを見ると、各遊説地での様子や、人柄を映し出すような写真や動画を多く目にすることが出来ます。元大統領を父に持つゆえに「お嬢様」のイメージを持たれていたことに対し、自宅の台所でコーヒーを入れる様子を収めた写真などをカカオトーク上で配信したところ、庶民的なイメージを与えることに成功したと言われています。

朴槿恵氏のソーシャルメディアアカウント状況(2012/12/25時点)

フェイスブックページ : 約3万6000の「いいね!」
ツイッターアカウント: 約26万フォロワー
ユーチューブチャンネル: 310万回以上の視聴回数
フリッカー(写真共有サイト): 約7000枚の写真掲載
・カカオトークの友達: 約60万人


*カカオトークは韓国における無料通話アプリで、韓国国民総人口約5000万人中約2700万人(グローバルでは約7000万人)が利用しているサービス
韓流スターやK-POPアイドルたちの「投票認証ショット」を伝える韓国芸能サイト
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【3】著名人、歌手、アイドルらによる投票を促す「認証ショット」
 近年の韓国の選挙で特徴的な点として、著名人、歌手、アイドルらが、投票を促すために自らの投票しているところを写真に撮り、ツイッターなどのソーシャルメディアに投稿する、いわゆる「認証ショット」という行為が拡がっていることがあります。

 今回も、日本で知名度がある歌手のBoAさん、東方神起のユンホさん、少女時代のスヨンさん、そして100万人以上からツイッターでフォローされている著名小説家のイ・ウェスさんなどが「認証ショット」を投稿し、多くの人にそうした声が伝播していったとされています。

年齢層別の予想投票率、得票率(朝鮮日報)
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【4】投票率「75.8%」、50代は9割
 さらに驚くべきデータは、今回の大統領選の投票率の「75.8」%という数字です。

 韓国における大統領選の投票率は、過去を遡ってみると、1997年に金大中(キム・デジュン)氏が当選したときは80.7%、2002年に盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏が当選したときは70.8%、そして前回の2007年に李明博(イ・ミョンバク)氏が当選したときは63.0%と、近年、連続して落ち込んでいました。5年の歳月を経て、今回は13ポイント近く上昇したことになります。

 なお、各世代の投票率は、20代が65.2%、30代が72.5%、40代が78.7%、50代が89.9%、60歳以上が78.8%という結果で、50代のほぼ9割が投票するという驚異的な数字を示しています。

 専門家によると、今回の選挙は若者による投票の「風」が吹いた訳ではなく、50代~60代のシニア世代の多くが、将来に対する経済的な不安を中心に危機感を抱き、投票所に足を運んだと言われています。右上の朝鮮日報作成のグラフを見ると、20代~30代では圧倒的に文氏の得票率が高いにもかかわらず、急速に進む少子高齢化の影響でシニア層の人口分布が膨み、そこでは朴氏が大きく票を伸ばしていることがわかります。

*「大統領選: 選挙結果を左右した50、60代の不安感(朝鮮日報, 2012/12/21)

 ちなみに韓国では、すでにスマートフォンの普及が進んでおり、人口約5000万人のうち3200万人以上がスマホを持つとされています。ある携帯電話会社のアンケートによると、60代~70代の半数以上が「スマホを使っている」と答えるほど、シニア層のスマホ利用率が高くなっているそうです。

 「人指し指族が親指族を『押さえた』」と「東亜日報」に報じられていました。その意味するところは、人指し指で文字メッセージを打つ50歳以上の有権者が、かつて目にもとまらぬ速さで親指でメッセージを打っていた若者たちを制した、とのことです。

参照:「保守系スマホ中高年、朴氏援護 韓国大統領選(朝日新聞デジタル, 2012/12/24)

【5】なりすまし、誹謗中傷のリスク
 インターネット選挙活動の導入に関する議論で常に指摘されることに、なりすましや誹謗中傷のリスクが挙げられます。もちろん、多くの人にとって自由に情報を発信することが可能なプラットフォームゆえ、なりすましや誹謗中傷をなくすことは困難です。しかし韓国では、先に述べた通り、それぞれの陣営で多くのスタッフが日々投稿のモニタリングを行い、事実誤認があれば、それを訂正するための対策を取りました。

 「東亜日報」の記事は、今回の大統領選挙は名実共に「SNS大統領選挙」と呼ぶに値すると評価した上で、選挙戦が終盤に近づくにつれ、SNS上の選挙が相手へのネガティブキャンペーンへと流れていったことを、代表的な副作用として指摘しています。特にSNS上の選挙運動について、これといった法的制裁手段がないことを悪用し、「嘘ならそれまで」ということで次々と疑惑を生産し、拡散してしまったことを問題視しています。そして、「いかなるやり方であれ、制度的補完が必要である」という見方が多いことも強調しています。

 例えば、「朝鮮日報」の記事も、「財閥から受け取ったカネで選挙を戦ったのだから、財閥中心の政策で貧富の差がさらに拡大する」「朴槿恵は大企業と妥協するスタイルだ」「朴当選者はテレビ討論で、iPadを取り出してカンニングをした」などの疑惑の多くがSNSを通じて広まったと紹介しています。

*「初のSNS大統領選挙、影響力と問題点(東亞日報, 2012/12/20)

*「大統領選: SNSで飛び交った怪情報(朝鮮日報, 2012/12/19)

 また、2012年の春に韓国で行われた総選挙の直後には、同じく「東亞日報」で『選挙戦で重宝されたSNS、選挙終わると途端に打ち切り』と題した記事が掲載され、別の視点からのリスクが指摘されていました。同記事によると、投票日を過ぎると同時にSNSの更新頻度が落ちたり、あるいはまったく利用しなくなったりした議員が多かったそうです。

*「選挙戦で重宝されたSNS、選挙終わると途端に打ち切り(東亞日報,  2012/4/23)

 以上、あくまで概要ではありますが、日本より一足早くネット選挙が解禁された韓国の大統領選挙を中心に、気になるデータ、トピックを紹介しました。

 もちろん、ソーシャルメディアを活用するだけで選挙結果が左右される訳ではなく、その時々の政治、経済、安全保障などを巡る背景、そして政策が重要なことは言うまでもありません。ただ、韓国の事例を振り返る中で、政治家に必要なものとして従来挙げられていた3バン「地盤(支援組織)、看板(知名度)、カバン(お金)」に加え、今まで以上にネット上の「評判」に注意を払わなければいけない時代になりつつあることを感じました。

 成功、失敗を含め、韓国でのネット選挙活動の事例に学び、日本にもいずれ訪れるネット選挙解禁に備えることが、ますます必要になっています。

本記事に関するご意見、ご質問、フィードバック等は筆者のFacebookページまでお願いいたします。ツイッターは@socialcompanyです。

【お知らせ】
このたび、2010年から寄稿していた「ソーシャルビジネス最前線」の内容に大幅に加筆修正を施して、先日、以下の書籍を出版させて頂きました。ぜひ書店などで手に取って頂けたら幸いです。

著者: 市川 裕康
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