「息子と僕のアスペルガー物語」 ライフ
奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第9回】
まったく悪気なく「ひどいこと」を言ってしまう理由

【第8回】はこちらをご覧ください。

息子の喜ぶ顔が見たくて、得意料理を作ってみた

 この前の日曜日、僕は朝から台所に籠もり、食材と格闘を続けていた。

 ジャガイモ、にんじん、タマネギと順番に皮をむき、適当な大きさに切り分けると、鍋に次々と放り込んでいく。フライパンで牛肉を軽くあぶり、それも鍋に入れる。そこに水とルーを加え、灰汁をすくい取りながら煮込んでいけば、出来上がり。僕は、家族のために、カレーを作っていたのだ。

 と言っても、僕はもともと、家事にそれほど熱心な方ではない。内心、妻に「負担をかけて悪いな」と後ろめたく思いながら、多くを任せてしまっている。特に、料理はめったにしない。

 ひどく不器用なので、レシピ通りに作ったつもりでも、似ても似つかぬ料理になってしまうことがほとんどだからだ。「想定外の事態」に直面するのが何よりも嫌いな僕にとって、好ましいことではない。

 でも、たった一つだけ例外がある。それがカレーだ。

 学生時代、自分で何度も失敗しながら工夫を重ねた結果、極めて簡単で、しかも再現可能なレシピを確立することができた。そう、何度料理しても、同じ時間で同じ味の、結構おいしいカレーが作れるようになったのである。これは、「物事が計画通りに進むこと」に無上の喜びを感じる僕にとって、本当に嬉しいことだった。

 そんな話を前日の午後、家族でお茶を飲んでいるときに話したところ、息子が急に「へぇ、そうなの。僕、お父さんのカレーを食べてみたいな」と言い出した。可愛い息子のたっての願いである。しかも翌日は、うまい具合に日曜日ときている。

「よし、おいしいのを作ってやるぞ」と僕は張り切って答えた。さっそく、いつもこれと決めている食材(と言ってもジャガイモ、にんじん、タマネギ、牛肉だけなのだが)を妻に買ってきてもらった。

 そして日曜の朝、朝食を食べるとすぐ、気合を入れてカレー作りに取りかかった。ジャガイモの皮むきから始めて、煮込みの終了まで3時間半。ちょうどお昼に食べられるようにカレーが完成するはずだった。僕は、息子が「おいしい、おいしい」と大喜びでカレーを頬張る姿を脳裏に思い浮かべながら、ルーの表面に浮かんでくる灰汁(あく)を取り続けた。