インチキがんワクチンはどうしてなくならないのか?
倫理なき日本の医師と品性なき厚労省の「犯罪」

上昌広(東京大学医科学研究所特任教授)

 いったん、このような枠組みが出来上がると、拠点病院には毎年補助金がつき、その関係者が審議会や評価委員会のメンバーとなる。この結果、「利権」が発生し、そして固定化する。これでは自由な競争が阻害され、医学は進歩しない。

 これまで医療現場では、患者と医師が知恵を出し合い、相談しながら、治療を進めるのが普通だった。患者の都合に合わせて柔軟に対応する医師も珍しくなかった。

 がんワクチンなどの未承認医薬品を用いる場合、患者が費用を負担することもあれば、医師が支払うこともあった。例えば、東大医科研病院のがんワクチン臨床研究では、がんワクチンは中村祐輔東大医科研教授(当時・現シカゴ大学教授)が無償で提供してきた。そして、医科研病院は、このような状況を様々な方法で情報公開してきた。

 ところが、一連の規制強化などにより、東大医科研病院はがんワクチンの臨床研究を中断したままである(ワクチンの開発は継続・臨床は全国の協力病院で行っている)。

 医科研病院は、小規模の専門病院のため、臨床研究中核病院に選ばれることもない。中村教授は我が国の状況に失望し、米国へと移住した。厚労省が規範を振りかざして介入した結果、現場が築き上げてきた医療システムを壊してしまった。これでは誰のための施策かわからない。

 なぜ、こんなことになるのか。それは患者、研究者、厚労省それぞれの利害が一致していないからだ。

 ドラッグ・ラグに直面した患者は「まだ身体の中に残るがんに効く未承認薬があれば使ってみたい」と望む。研究者は「未承認薬を使うなら、それが将来の承認申請に結びつく臨床研究としてやるべきではないか」と主張し、厚労省は「未承認薬を使うなら、自分たちが認定した施設に限定すべきだ」という。この様な思惑の違いを十分に認識することなく、官主導で議論は進んでいく。

 多くの国民は無関心だ。患者をおいてけぼりにした、政府や有識者が唱える「お題目」を鵜呑みにしてしまう。そのような施策が、翻って自分たちにどのような影響を与えるか想像することはない。

「白い詐欺師」が跋扈していることが問題だ

 確かに、インチキ免疫療法は問題だ。被害は最小限に抑えねばならない。ただ、そのための方法は、「厚労省がチェックする」以外にも幾らでもある。例えば、医療機関の情報開示を徹底し、専門家がピア・レビューをするという方法もある。マスメディアがまともな報道をすれば、多くの国民に届くだろう。