インチキがんワクチンはどうしてなくならないのか?
倫理なき日本の医師と品性なき厚労省の「犯罪」

上昌広(東京大学医科学研究所特任教授)
各国の第二相臨床試験の実施数の推移(小野俊介准教授〈東大大学院薬学系研究科〉提供)

 特に第二相(フェイズ2)治験(薬の有効性を判断する臨床試験、ちなみに第一相は、有害な副作用の有無の確認、第三相は、二重盲検法による大規模試験)の落ち込みは著しい(図参照)。小野准教授は「日本だけトレンドが違う。日本の創薬は確実に衰退している」と言う。

 なぜ、厚労省と小野准教授の主張は食い違うのだろうか。

 それは、統計の取り方が違うからだ。厚労省がドラッグ・ラグを議論する際に対象とするのは、「世界中いろんな国で治験をおこなっている製薬会社が、たまたま我が国で治験をした薬剤」だけだ。

 厚労省によれば、欧米とのドラッグ・ラグは2年程度で横ばいだが、我が国で治験に着手されない薬剤を対象に含めれば、開発段階での遅れは2009年で3.0年程度。1996年の1.2年より悪化している。どちらが実態を反映しているかは、言うまでもない。

広告やネットで氾濫するがんワクチン&免疫療法なぜ

 ドラッグ・ラグのツケを払うのは患者である。自力で有効な薬を探しだし、入手しなければならない。その中にはがんの免疫療法のワクチンなども含まれる。

 もともと身体に備わっている免疫機能を司る細胞を活性化して(増やして)がんをおさえるというふれこみだから、がん患者にとって、免疫療法は魅力的に映る。ところが、この世界は複雑怪奇だ。様々な人物や業者が跋扈し、広告やネットで自らの治療法の有効性を声高に主張する。患者は誰を信じて良いかわからない。

 本来なら、患者の不安につけこむような高額療法があればそれをチェックして告発すべきメディアも信用ならない。

 「免疫療法の評価にはきっちりとした臨床研究が必要だ」「国が認可できるほどのエビデンス科学的根拠を積み重ねるべきだ」という記事を掲載している横には、「がんが消えた」や「奇跡の生還」のような、この手の本の宣伝が並んでいる。たいていが科学的実証されていないインチキ療法だ。掲載する新聞社も「本の広告」であって療法そのものの広告ではないから、と、責任を回避しているようだ。