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日本が誇るトップドクターが明かす シリーズ 第2回
胃がん・王貞治の主治医 北島政樹 医学の未来は漢方にあり

 国内きっての胃がんの名医として知られ、確かな技術をもつ外科医。それでいて、築いた地位にひとときも安住することはない。腹腔鏡とロボット手術の第一人者が、最新がん治療の温故知新を語る。

手術しても流血しない時代

「慶應の創始者・福沢諭吉先生は、130年前に『将来内視鏡の機器が進歩して、子宮、直腸、胃の裏まで見ることができるようになる』と予見していました。そして『医学は外科より進歩するものなり』とも書いている。これは外科医である我々を奮い立たせますよ」

 北島政樹医師(71歳)は、慶應義塾大学医学部の教壇で、そして学会で、いつもこの福沢諭吉の「予言」を伝えてきたという。

 杏林大学医学部教授、慶應義塾大学病院長・医学部長を歴任し、現在は医療・福祉の総合大学、国際医療福祉大学学長を務める北島氏。彼は日本一の胃がんの名医といわれる。'06年には、当時プロ野球・福岡ソフトバンクホークス監督だった王貞治氏の主治医として胃がんの手術を執刀、腹腔鏡による開腹なしでの胃の全摘出を成功させた。

「胃がんは、4cm以下の早期がんで粘膜がん(胃内壁の表面で留まっているがん)ならば、まず大丈夫。リンパ節の転移はほとんどないですから、内視鏡でその部分だけを切除します。早期発見できれば、ほぼ確実に治ります。

 進行がんでも諦める必要はない。効果のある抗がん剤もできているし、ペプチドの研究や免疫療法も進んでいます。分子標的治療薬も、乳がんに使っていたものが胃がんにも使えるようになっている。『集学的』治療で、いろんな手を打てます。いまではさらに、漢方も取り入れています。諭吉翁の言葉どおり、医学は進歩していますよ」

 実は、王氏と北島氏には昔からつながりがあった。北島氏が慶應大医学部の野球部に在籍していた頃、王氏の実兄で慶應出身の外科医・王鉄城氏(故人)が監督を務めていたのだ。

「鉄城先生がキャプテンの時代、慶應は関東医科大学リーグ戦で優勝した。それから10年後、先生が監督、私がキャプテンになり、もう一度優勝したんです。

 鉄城先生も貞治さんも、あれだけの方が偉ぶらずいつも気を配っている。『実るほど頭を垂れる稲穂かな』が大事だとお二人から学びました」

 王氏の手術も、鉄城氏の紹介だったという。

「いやぁ、まさか憧れていた王さんを手術することになるなんて、思ってもみませんでした。