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グーグルが雇用した危ない天才発明家とAIの行方

レイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)氏 〔PHOTO〕gettyimages

 グーグルが先日、自社の開発責任者の一人として発明家のレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)氏を採用し、話題となった。

 カーツワイル氏は音声認識や光学文字認識(OCR)など様々な領域で先駆的な業績を残し、1999年には「アメリカ国家技術賞(National Medal of Technology)」を受賞するなど、米国、いや世界でも有数の発明家だ。作家や未来学者(Futurist)としても活躍し、さらにヘッジファンドまで運営して、そこで自ら開発したAI(人工知能)システムを使って資産運用するなど、マルチ・タレントとして知られる。

 その一方で不老不死に興味を持ち、そのために機械と人間を徐々に融合させて、最後には人間の意識を電脳に移植する、といったことを本気で考えているエキセントリックな人物でもある。

 カーツワイル氏は「シンギュラリティ(Singularity:技術的特異点)」の信奉者、ないしはリーダーとしても知られる。シンギュラリティとは、米国の数学者・SF作家であるヴァーナー・ヴィンジ(Vernor Vinge)氏が1993年頃から提唱している一種の未来思想で、「コンピュータのように高度な機械が今後、加速度的に進化することにより、機械がいずれ人間を上回る知能ばかりか、意識までも持つようになる」とする予想である。

 ヴィンジ氏のようなSF作家がこれを言うだけだったら、それで終わりかもしれないが、カーツワイル氏のように正真正銘の発明家で技術的な裏付けも持った人がその後ろ盾となっていることから、シンギュラリティは全米でかなりの支持者を獲得している。

 彼らは年に1回、「シンギュラリティ・サミット」と呼ばれる集会を開いて、極めて真剣にその実現に向けたロードマップを検討している。彼らの予想では、機械が人間を超える日は2045年頃と見ている。

AI開発を強化したいグーグル

 さて、このようなカーツワイル氏を採用したグーグルの狙いだが、それは同社のAI開発力の強化に尽きる。同氏を採用する数日前、米フォーチュン誌のインタビューに応じたグーグルのラリー・ページCEOは「自動走行車(ロボット自動車)」や「人間の意図を理解する検索エンジン」などについて熱く語り、ページ氏の最大の関心が今、こうした分野にあることを伺わせた。

●「Fortune Exclusive: Larry Page on Google
 FORTUNE / December 11, 2012

 カーツワイル氏は今後、グーグルのフルタイム従業員として勤務し、(AIの主要分野である)機械学習と自然言語処理の技術開発を指揮するという。前回のコラムでも言及したが、AI(人工知能)は今、史上稀に見る技術革新の最中にある。

 現在のAIは大きく3つの学派に分けられる。1つは昔ながらのやり方で、たとえば文法や構文木(シンタックス)のようなルールをコンピュータに教え込み、それによって知的処理を行うもので、「ルール・ベースのAI」などと呼ばれる。2つ目は、そのようなルールはほぼ無視して、大量のデータをコンピュータに読み込ませ、それによって統計的、確率的なアプローチから知的処理を行うAIである。

 現在、勢いを増しているのは2つ目の学派で、グーグルで検索エンジンや機械翻訳などに携わっている社員はほぼ、この統計・確率派に属する人たちで占められている。ルール・ベースの古典的なAIは柔軟性に乏しく、実用化に向かないとする見解が主流となりつつあり、グーグルのエンジニアもほぼこのような見方をしていると思われる。

 統計・確率的なアプローチは今のところ、昇り竜の勢いで画期的な成果を上げているのだが、何しろ基本にあるのが統計と確率なので、「あんなものは知能や知性とは呼べない」とする批判も聞かれる。

 統計・確率的AIというのは、たとえばコンピュータが大量に読み込んだ文書を分析し、それに基づいて「I」の後には「love」が、「love」の後には「you」が来る確率が何パーセントといったやり方で、「I love you」という文章を出力する。

 要するにコンピュータ(AI)は確率に基づいて単語と単語をつないでいるに過ぎず、肝心の文章の意味は全く理解していないのである。確かに今は結果を出しているかもしれないが、これが今後幾ら進歩したところで本当の知能に成長することはない、いずれは限界にぶち当たる、という見方が根強くある。

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