読書人の雑誌『本』
『民法はおもしろい』著:池田真朗
カンボジア人学生からの手紙

 一一月も終わろうとする寒い日に、まだ会ったことのない二人のカンボジア人学生からの手紙が、人を介して送られてきた。私の二〇一二年秋の紫綬褒章受章を祝ってくれる手紙だった。二通とも、誠実さが伝わる筆跡で、きちんとした敬語も使った日本語で書かれている。

 それは、私にとって、何よりもうれしいプレゼントだった。二人は、現在は日本に留学してきているが、数年前にプノンペンの王立法経大学で、クメール語に翻訳された私の民法の入門教科書を学び、かつ私が寄贈したその原書(『民法への招待』税務経理協会)で日本語を学んだ人たちだったのである。

 話は一九九八年の一〇月にさかのぼる。私は、研究室に来訪されたお二人の弁護士(木村晋介氏と桜木和代氏)から、私の民法教科書について、クメール語への翻訳の許諾を求められた。

 聞けばお二人は、弁護士さんたちのボランティア団体「日本・カンボジア法律家の会」の共同代表で、多くの命が失われた不幸な内戦の後、法律を教える教員もその教科書も満足にない状態になったカンボジアの法学教育支援のために、日本の法律教科書をクメール語に訳し、その訳本をカンボジアの大学や裁判官養成所などに寄贈する計画を立てたのだという。

 かつてカンボジアではフランス法が行われていたので(周知のようにベトナム、ラオスとともに仏領インドシナであった時代がある)、フランスとドイツの影響を受けて作られている日本民法は、かなりの程度に親和性があるとのことだった。私が喜んで承諾したのは言うまでもない。幸い、出版社も無償で認めてくれた。

 そして二年近く経って忘れたころになって、またお二人がやってこられた。今度は、『民法への招待』が三分の一ほど訳せたので、第一分冊の贈呈式をすることになった、ついては、そこで記念講演をしてくれないか、というのである。こうして、私の最初のカンボジア行きは、二〇〇〇年の暮れに実現した。

民法はおもしろい
 
◆ 内容紹介
知らないと損をしてしまう、「人生の必修科目」! 連帯保証人の悲劇とは? ゴミ集積場に出したゴミは誰のもの? ネットで誤って承諾をクリックしてしまったら。振り込め詐欺にあったら――。 変わりつつある「現代社会の基本法」を第一人者がわかりやすく紹介する格好の入門書。