読書人の雑誌『本』より
2013年01月03日(木)

『減電社会 コミュニティから始めるエネルギー革命』著:小澤 祥司
「減電」で日本が再生する

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 ライン川の支流に削られた谷は思いのほか深く険しい。暗い葉色をしたトウヒやモミの森を縫うつづら折りを上りきると、丘の上には思いがけず雄大な牧草地が広がっていた。そこには木々を見下ろす巨人のような風車が五基、間を置いてゆったりと羽根(ブレード)を回転させていた。南斜面に建つ家々や畜舎の屋根には太陽光発電パネルが輝き、軒先にはたくさんの薪が積み上げられていた。

 ドイツ南西部のバーデン–ヴュルテンベルク州フライアムトは、黒い森(シュヴァルツヴァルト)の中にある村だ。二〇一二年五月に、私がこの村を訪れたのは、自然エネルギー導入の進むドイツの中でもとりわけ先進的な地域だと知ったからである。

 この村では風力発電、太陽光発電、そしてバイオガス(家畜糞尿や食品廃棄物などを原料に発生させた、メタンを中心とする可燃性ガス)発電で、村で使う以上の電気を生み出しているほか、暖房や給湯の燃料は地域で取れる薪や、木々を粉砕したチップでまかなう。その薪やチップは村外にも運ばれている。

 二〇〇〇年にドイツで導入された再生可能エネルギー法(EEG)は、自然エネルギーからの電気を、コストに見合いなおかつ利益の出る価格で買い取ることを電力会社に義務づけた。フライアムト村ではこの制度を活用し、地域住民が組合を作って、風力発電ビジネスに乗り出した。太陽光発電の方は主に個人が銀行などから融資を受けて設置している。こうして自給自足どころかエネルギーの〝輸出〟を達成、風や太陽、森の恵みが、地域に富をもたらしているのだ。

 黒い森周辺は、春の味覚、軟白アスパラガス(シュパーゲル)の産地である。シュパーゲルの季節になるとレストランには、専用のメニュー「シュパーゲル・カルテ」が置かれる。ゆでたシュパーゲルにオランデーズソースをかけ、ゆでじゃがいもやシュヴァルツヴァルター・シンケン(塩漬け生ハム)を付け合わせるのが当地風だ。肉や湖でとれるマスも組み合わせるが、いずれにしてもメインはあくまでシュパーゲルである。

 当地はワインが名産でもあり、農業や観光が主要な産業。住民は、秋になると森に入ってキノコ採りやベリー摘みを楽しむ。そのキノコやベリー、マスが食べられなくなってしまったことがある。一九八六年春、旧ソ連チェルノブイリ原発で起きた事故によって放出された放射性物質が、はるか一五〇〇キロメートル離れたこの森に降り注いだのである。

『減電社会
コミュニティから始めるエネルギー革命』

著者:小澤祥司
講談社 / 定価1,470円(税込み)
 
◆ 内容紹介
原発事故前と原発事故後で何が変わったのか。何も変わっていないのではないかと私は思う。それは原発を必要とする側と、原発をやめようという側、双方に言えることだ。 脱原発へのマクロなシナリオを描くことはできなくはないが、それは単なる数字の遊びと言われてしまえばそれまでである。いま必要なのはやってみせること、グッドプラクティスを示すことではないか。一つ一つ小さくてもいいから、地域から動き出せば、必ず日本は変わると信じたいし、もう一度そこから始めたい。(本文より)
 
 
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