現代新書
財務官僚が分析する「習近平時代の中国経済」
『中国共産党の経済政策』著者・柴田聡氏インタビュー

2012年11月の第18回党大会で習近平が中国共産党トップの総書記に就任、2013年春には国家機構の頂点である国家主席に就任する。「2020年までにGDP倍増」を掲げる中国は、習近平政権の下、はたしてその目標を達成し、米国と並ぶ超経済大国になれるのか。中国の政策決定過程を深く知り、このたび『中国共産党の経済政策』(12月18日発売)を刊行した財務官僚の柴田聡氏に話を聞いた。

「人民元の自由化」は本当に実現するのか

第18回党大会における習近平氏(59歳)の総書記就任など、最高指導部人事を新著に反映させるため、まさにギリギリの進行だったとうかがっています。新たに最高指導部(常務委員)に就いた7人の顔ぶれをご覧になって、柴田さんはどんな印象を受けましたか。

柴田 正直、期待から大きく外れた結果でした。一言で言うと、今後、中国の経済政策の方向性自体は従来とさほど変わらないと見ていますが、それを実行していくペースが当初予想していたよりもおそらく緩慢になるのではないでしょうか。とりわけ、金融・通貨政策に関しては、改革のスピードが見込んでいたよりも落ちるのではないかと心配しています。

 そもそも今回の党大会では、金融や経済に通じたプロフェッショナルが最高指導部入りすることを、待ち望んでいました。

 ところが、いざフタを開けてみたら、金融界出身の実務派として海外から高い評価を得ている王岐山氏(64歳)が党序列6位で常務委員入りしたものの、畑違いの規律委員会書記に就いたため、得意の経済分野を直接担当するわけではありません。

 また、ほかにも経済に精通した「改革派」といわれ、常務委員入りすると予想されていた人たちが、軒並み選出されませんでした。「いよいよ『改革派』が最高指導部入りし、実際に影響力を発揮してくれる」と楽しみにしていたのですが、国際社会が期待しているようにはなかなか進んでくれないなあ、というのが率直な印象です。

王岐山氏以外の「改革派」というのは、汪洋氏(57歳)ですか。

柴田 聡(しばた さとる) 1969年岩手県葛巻町生まれ。92年東京大学経済学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。96年スタンフォード大修士。財務省主計局主査等を経て、2008年から12年まで在中国日本国大使館経済部参事官。現在、財務省理財局総務課調査室長。著書に『チャイナ・インパクト』(中央公論新社)の他、中国経済に関する論文寄稿多数。

柴田 そうです。汪洋氏についてはまだ若いので、5年後の党大会で常務委員になるという噂もありますが、今回は最高指導部入りしなかった。国務院副総理への就任が有望視されていますが、政府の中で何を担当するのかに注目しています。

 外国人からしてみれば、当然、「経済の対外開放に対して前向きな人が最高指導部に入ってくれればいいのに」と思うわけですが、日本でも社内と社外の評価が必ずしも一致しないように、中国でも最終的には内部の評価のほうが〝勝った〟ということかもしれません。

 いずれにしましても、いままで金融の分野で改革を進めてきたラインが総入れ替えされたものですから、来年3月、全国人民代表大会(通称「全人代」、日本の国会に相当)において発足する新しい政府人事を見てみないことには何ともいえないのですが、はたして新しい布陣の実行力が十分なのか、少し不安に思っています。

柴田さんとしては、習近平体制が金融に関してそれほど重要視していない、つまり、米国などから「人民元の自由化」を強く求められているにもかかわらず、実は「後回しでいいんじゃないか」と中国は思っているのではないのか? という印象でしょうか。

柴田 国務院総理(首相)に就任するであろう、党序列第2位の李克強氏(57歳)も、党大会が終わった後、中国政府内の会議で「なんといっても改革が最重要課題だ」と演説していますので、改革の方向性自体に変化はないと思います。

 ただ、改革を実務の面で支えていく新しい布陣が、保守的な調整型タイプばかりだとしたら、海外の人たちが期待するような、迅速な改革が進まない可能性はあります。

 党人事を見る限り、中央委員や中央候補委員に、金融界出身の人間が増えたことは歓迎すべきことですが、これまで王岐山氏が務めてきた金融担当の副総理、また中国経済の対外的な顔となる人民銀行行長や財政部長の後任に、改革派の実務型リーダーが就任するかどうかに注目しています。

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