ドキュメンタリスト志望者は地方局を目指すべき!? 経済が疲弊しても番組制作で気を吐く地方局の存在価値

 BS放送の計画が具体化した1970年代、地上波の地方局幹部は「局舎が炭焼き小屋になってしまう」と青ざめたが、それは杞憂だった。BSやCSの新局が次々と生まれようが、在京キー局へのニュース供給源としての役割は変わらない。70年代よりニュース番組は拡充されているから、むしろ地方局の存在価値は高まった。東北に系列の地方局を持っていなかったら、キー局は昨年の3.11の惨状を全国に伝えられていない。

 地方局は番組制作でも気を吐いている。地方経済は首都圏より疲弊しているため、CM収入は軒並み落ち、全国放送の番組を放送する代価としてキー局から受け取るネット料も減少傾向にあるが、それでも全番組の約10%~20%以上は自分たちでつくっている。

 特に精力的なのがドキュメンタリーとノンフィクションの制作。キー局のプライムタイムからはドキュメンタリーとノンフィクションが消えて久しいが、地方局からは秀作、力作が次々と生まれている。地方局はタレントとの関係がキー局より希薄であるため、そもそもドラマやバラエティーの制作は難しいという事情もあるが、ドキュメンタリスト志望者は地方局を選んだ方がいいくらいだ。

骨太のテーマを追い続ける阿武野勝彦氏

 昨年の文化庁芸術祭でテレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞と日本民間放送連盟賞(テレビ報道番組)を受賞したのもフジ系列の東海テレビによる『死刑弁護人』(昨年10月9日放送)だった。死刑事件の弁護人を引き受け続ける、安田好弘弁護士の姿を1年がかりで追いかけた力作だ。

 ローカル限定の放送だったが、キー局の番組を抑えてのダブル受賞。そもそもこんな作品はキー局ではつくれなかっただろう。安田弁護士はオウム真理教事件や和歌山カレー事件、光市母子殺害事件など社会から憎悪される犯罪も弁護するため、反発する向きから噛み付かれることもある。多数派の意見が尊重されがちなキー局では、やりにくいだろう。

 とはいえ、死刑事件の被告にも弁護される権利が当然ある。弁護人不在では暗黒裁判になってしまう。弁護人が被告の胸の内を明かさなければ、事件の真相が見えず、類似犯罪の防止は図れない。無論、冤罪の恐れも生じる。誰かがつくるべきドキュメンタリーだった。今年7月には再編集版が映画として上映され、こちらも反響を呼んだ。

 担当プロデューサーは阿武野勝彦(あぶの・かつひこ)氏。この名前を知らぬドキュメンタリストはいない。冤罪や司法問題、戦争、公害など骨太のテーマを追い続け、昨年は芸術選奨文部科学大臣賞を受けた。09年には日本記者クラブ賞も受けている。

 日本を代表するドキュメンタリストなのだが、今年はドラマまで制作した。『約束 ~名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯~』(6月30日放送)。阿武野氏は事件の真相を探るドキュメンタリーを過去3本も制作しているが、さらに新たな番組をつくろうと考え、それには表現手段としてドラマがいいと判断したという。事件から51年が過ぎ、多くの関係者が亡くなり、奥西勝死刑囚(86)も獄中であるためだ。

 やはりキー局のフジが放送しないローカル番組にもかかわらず、キャストは圧巻。無罪を訴え続ける奥西死刑囚役を仲代達矢(79)が演じた。息子の無実を信じ続け、獄中へ969通の手紙を書いた母親・タツノさん(故人)役は樹木希林(69)。2人とも阿武野氏らの熱意に打たれ、出演依頼を受け入れたという。

 このドラマも評判となり、「東京ドラマアウォード2012年」のローカル・ドラマ賞を受賞した。優れたテレビマンは表現手段を問わないらしい。全国放送を望む声が高まっているが、ひとまず『死刑弁護人』と同じく、映画版の公開が決まった。来年2月にユーロスペース(東京)で上映される。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら