「息子と僕のアスペルガー物語」 ライフ
奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第7回】
中学時代から僕を苦しめてきた「深刻な症状」

【第6回】はこちらをご覧ください。

突然、異変が起きた

 その症状に僕が初めて気がついたのは、中学の生活にようやく慣れた、中学1年生の6月のことだった。

 すでに季節は梅雨に入っていて、連日、雨が降り続いていた。ところが、その日は朝から珍しく快晴。僕は「今日は久しぶりに外で体を動かせるぞ」と、浮き立つ気持ちで登校した。1時間目の授業は体育だった。

 朝礼が終わると、生徒たちは皆、体操服に着替えていっせいに外に飛び出し、校庭の真ん中で円座になって集まった。そこへ体育の教師がやって来て、「今日の授業ではサッカーをやるぞ」と言った。

 僕も含め、運動好きの生徒たちは「やったぁ!」と歓声を上げ、皆、思い思いに近くのクラスメートと話し始めた。教師はそんな騒がしい雰囲気に構わず、淡々とチーム分けを発表していった。

 「俺、誰と一緒のチームになるのかな?」

 そう思って、何気なく教師に顔を向けた瞬間、僕の「耳」に異変が起きた。

 突然、体育教師の声が聞き取れなくなったのである。ほんの数メートル先で彼が何を話しているのか、内容が急にわからなくなった。

 声そのものが聞こえなくなったわけではない(無音状態になったわけではない)。教師が喋っているのは聞こえる。周囲で同級生たちがお喋りしているのも聞こえる。しかし、体育教師が発する言葉が、あたかもクラスメートたちの声に溶け込んでしまったかのように、何を意味しているのか急に理解できなくなったのだ。

 僕は教師の顔を凝視し、集中して、彼が何を話しているのかを把握しようと試みた。でも、どう頑張ってもそれは不可能だった。教師の太い声は、音としては十分に僕の耳に入っており、単純に「聞く」ことはできる。同級生たちのお喋りでかき消されているわけではない。