がんワクチンが話題になっている。11月18日、NHKスペシャル『がんワクチン ~"夢の治療薬"への格闘~』が放映され、12月6日にはがんワクチン研究の第一人者である中村祐輔・シカゴ大学教授が『がんワクチン治療革命』(講談社)を出版する。私自身、最近患者から「がんワクチン治療は、どうやったら受けることができるのでしょうか」と尋ねられることも多い。
がんワクチンとは、がん細胞の一部を使って患者の免疫を活性化し、がんの進行を抑えるものだ。がん細胞にだけ発現している抗原を利用すれば、正常な細胞には影響しない。つまり、副作用を減らすことができる。従来の手術・抗がん剤・放射線治療が強い副作用を伴うのとは対照的だ。第四のがん治療として注目されている。
がんワクチンの開発は試行錯誤の連続だった。多くの研究者、ベンチャー企業が挑戦し、敗れ去っていった。筆者が国立がんセンターに在籍当時(2001-2005年)、がん専門医の中には「免疫療法など効くはずがない」と公言するものも珍しくなかった。
状況が変わったのは、2009年4月、米国の「デンドレオン社」が前立腺癌に対するがんワクチン(プロベンジ)の臨床試験結果を発表してからだ。デンドレオン社が米国食品医薬局(FDA)に提出した資料によれば、512人の転移性の前立腺癌患者を対象に、プロベンジ群の生存期間中央値は25.8ヵ月、プラセボ(偽薬)群は21.7ヵ月と、プロベンジの投与で生存期間は4.1ヵ月延長した。
進行がんの生存期間を4.1ヵ月延長したことは、がんの専門家にとっては驚異的だった。また、当初の予想通り、重篤な副作用は報告されなかった。この研究成果は、医学誌の最高峰『New England Journal of Medicine』のトップに掲載され、2010年4月には米国FDAが承認した。
ただ、発売当初、プロベンジがどれだけ普及するか、多くの医師は疑問をもった。それは、プロベンジの費用が9万3,000ドルと高額だからだ。4ヵ月の延命のために、700万円もお金をかけることが許されるのか、医師の多くは疑問を抱いた。