誹謗ツィート、リツィートで告訴される可能性も---英国の誤報事件が思わぬ展開に

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 英国で大物政治家を誤って誹謗した無数のツィートが、過去に例のない訴訟を招くかもしれない。

 事の発端は先月、英国で放送された2本のテレビ番組。まずBBCが11月2日、「元貴族院(英国上院)議員で保守党の大物政治家が、かつて幼児への性的虐待に関与した」と報じた。これを受け別の英テレビ局であるITVのレポーターが、この大物政治家を含む複数の保守党政治家の氏名を列挙した容疑者リストを手に、デビッド・キャメロン首相を直撃インタビューしてコメントを求める番組を放送した。

テレビ番組の誤報と誹謗ツィートの被害者になったAlistair McAlpine議員

 両番組とも、敢えて容疑者の名前を伏せた匿名報道とした。しかし、これらの放送を受け、ツィッター上では「この大物政治家とはAlistair McAlpine氏に違いない」とするツィートが飛び交った(もちろん両放送局とも、容疑者がMcAlpine氏であることを前提に番組を製作していた)。

 なぜ匿名報道にしたのに容疑者が誰か判明してしまったのか? その理由ははっきり分からないが、恐らく番組を見ていた英国の視聴者には、容疑者の名前を隠しても、それが誰であるか自明であったか、あるいはITVのレポーターが手にしていたリストの内容が、テレビ視聴者にも丸見えであったせいではないか、と見られている。

 いずれにせよツィッター上では、「McAlpine氏が幼児への性的虐待の犯人である」という認識が確定していまい、当然のことながら、同氏を非難、誹謗するツィートの嵐が吹き荒れた。ところが11月中旬、英紙ガーディアンが「BBCとITVの番組は誤報で、McAlpine氏が児童虐待に関与した事実はなく、むしろ同氏は誤報の被害者である」と報じた。

 両局は確かに被害者側からは「McAlpine氏から性的虐待を受けたことがある」という証言を得ていたが、加害者とされるMcAlpine氏には確認のインタビューを怠っていたようだ。ガーディアン紙の報道を受け、被害者自身が犯人の人違いをしていたことを公に認め、晴れてMcAlpine氏の無実が証明された。

 しかしツィッター上で連日連夜、名指しで非難されたMcAlpine氏の怒りは収まらなかった。同氏はまずBBCとITVを名誉毀損で訴える手続きに入ったが、裁判になれば全く勝ち目がないことを理解していた両局は早々と和解を申し出、BBCが18万5,000ポンド(約2,400万円)、ITVが12万5,000ポンド(約1,650万円)の慰謝料を払い、誤報を公式に認めてMcAlpine氏に謝罪することで和解が成立した。

ツィート、リツィートを流したユーザーも訴訟の視野に

 これで一件落着と見られたが、実際はそうはならなかった。McAlpine氏は弁護士事務所に依頼し、BBCとITVの誤報を受けて同氏を犯人呼ばわりした、多数のツィッター・ユーザーを特定した。そして、そのうち「英国下院議長の妻」や「著名コメディアン」など、多数のフォロワーを持っている有力ツィッター・ユーザー20名を名誉毀損で訴えることを検討しているという。

●「McAlpine libel: 20 tweeters including Sally Bercow pursued for damages」 the guardian 23,November,2012

 それだけではない。McAlpine氏の弁護士事務所は、(上記20名も含め)同氏を犯人呼ばわりするツィートを発したユーザー約1000名、そしてこれらをリツィートしたユーザー約9000名に対しても法的措置を講じる可能性をちらつかせている。

 もちろん「リツィートした人まで訴えるのは行き過ぎではないか」という意見も聞かれるが、McAlpine氏は「私の怒りは骨にまで達している」として、その可能性を否定しない。

 その一方でMcAlpine氏の弁護士事務所は、上記1万名のうち、フォロワー数が500名未満と比較的影響力の小さいツィッター・ユーザーに対し、自らのウエブ・サイト上で一種の自首を促している。そこでは「潔く罪を認め、公式の謝罪状をMcAlpine氏にメールで送った上で、こちらが指定する慈善団体にいくらかの寄付をしなさい」と呼び掛けている。

 もっとも「自首をしたら無罪放免」とまでは書かれていないが、文面から判断する限り、そう悪いことにはならないようにも思われる。一部の英紙には「5ポンド(約660円)寄付すれば許されるのではないか」とする推測が載っているが、その保証はない。

 もっとも現時点では、全てが推測の域を出ない。McAlpine氏の弁護士事務所は訴訟をちらつかせるだけで、まだ実際にツィッター・ユーザーを告訴したわけではない。ただし実際に訴えられたら、被告側は不利と見られている。

 英国の法律は元々、名誉毀損の加害者に厳しい上、今年3月にはニュージーランドの有名クリケット・プレイヤーが、彼をツィッター上で八百長犯人呼ばわりしたインド人の審判を名誉毀損で訴え、9万ポンドの損害賠償金を勝ち取っている。この裁判がロンドン高裁で争われた。つまり英国における判例として確定したのだ。

 事態が一件落着するまで、McAlpine氏を誹謗したツィッター・ユーザーは不安に苛まされる日が続くだろう。

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