調査の透明性と予見可能性を高める
民主党政権で国税通則法を大幅改正 来年1月施行【税務】

 税務調査の手続きなどを定め、「税法の一般法」とも呼ばれる国税通則法が11年11月、1962年の制定以来初めて大幅改正され、来年1月に完全施行される。「税務調査の手続きの法整備が遅れている」と日本弁護士連合会などから指摘されていた中、政権が「納税者権利憲章の制定」をマニフェストに掲げた民主党に交代したことが同法改正の大きなきっかけとなった。税務調査手続きの透明性や納税者の予見可能性を高めることが目的の今回の改正だが、国税職員からは「調査件数は相当減ることになる」など改正の負の影響を危惧する声も聞かれる。

「納税者の権利を明確にするために『納税者権利憲章』を制定します」---。09年8月の衆院選に向けて民主党が作った「民主党政策集INDEX2009」の税制の項目に、政府税調の設置、給付付き税額控除制度の導入、道路特定財源の一般財源化などとともに「納税者権利憲章」の制定の文字が並んでいた。納税者の権利を守るための具体的な改革として、更正(事後的な納税額の増額、減額)の期間制限が国税庁と納税者とで差があることを見直すとしている。

 民主党が政権を取った後の同年12月22日に閣議決定された「10年度税制改正大綱」にも「納税者の税制上の権利を明確にし、税制への信頼確保に資するものとして『納税者権利憲章(仮称)』を早急に制定する」と記された。

 さらに翌10年12月16日に閣議決定された「11年度税制改正大綱」になると、憲章策定とともに税務調査手続きの明確化や処分の理由説明の実施など、今回の国税通則法改正につながる内容が納税環境整備の項目内に併記されるなど、納税者権利憲章制定と国税通則法の改正はセットで考えられるようになった。

 しかし、ある国税職員が「憲章という屋根の下で始まったが、その屋根はなくなってしまった」と話すように、憲章策定については野党・自民党の反対もあって結局見送られることになり、国税通則法改正だけが結果的に残ることになった。

「納税者権利憲章」制定は見送り

 国税通則法改正直前の11年10月11日の税制調査会の議事録を見ると、中野寛成・民主党税調会長代行が「更正の請求期間の延長や理由付記など、納税者の権利を具現化する事項を早期に実施することによって、納税環境整備は相当前進する。言わば実が取れるとの判断に立って、憲章については断腸の思いではあるが、今回は見送ることとした」と述べている。

 政権発足時の民主党の思惑とはずれが生じたものの、「権利憲章だけ制定しても絵に描いた餅になる。そういう意味では確かに実を取ったといえると思う」と財務省主税局の担当者が評価する国税通則法改正。実際の法改正で変わった主な点は▽税務調査手続きの明確化▽更正の請求期間の延長▽処分の理由説明---などだが、現場の国税職員にとっては事務作業量増加を強いる「厄介者」という側面があることは否定できない。

 税務調査手続きについては、税務調査の事前通知と税務調査の終了の際の手続きが法制化された。現場の裁量に委ねられている部分があったうえに、これまでは税理士のみに伝えればよかったのが、調査対象本人にも伝えなければならなくなったため、手間は増えることになる。さらに、調査開始日時、調査開始場所などだけではなく、調査の目的、調査対象税目、調査対象となる期間、調査対象となる帳簿書類など通知する内容についても細かく定められたのも特徴の一つだ。

 調査終了の手続きも整備された。これまでは調査の結果、問題点が全くない場合は「調査結果についてのお知らせ」と題する書面を送付していたが、「実際には調査に入って何の指導事項もないことは少なく、この書面を送付することはまれだった」(国税庁課税総括課)。しかし、今後は指導事項の有無に関わらず、税目ごと、期間ごとに「更正決定等をすべきと認められない旨」を記した書面を納税者に交付しなければならなくなる。

 一方、調査の結果、何らかの問題点があった場合は、調査結果の内容を説明することが法定化され、さらに修正申告などを勧奨する場合は「修正申告を出した場合、不服申し立てをすることはできないが、更正の請求をすることはできる」ことを説明するとともに、そのことを記載した書面を交付しなければならないと定められた。

 このほか、納税者にとって不利益な処分についてはすべて理由を説明しなければならなくなる。

 一連の改正について、国税庁課税総括課は「慣れ親しんだやり方ではないのに加えて、法律で定められるということで『従来以上に厳密にやらなければいけない』という精神的な負担は大きくなるかもしれない。ただ、これまでやってきたことが極端に大きく変わるわけではないと思う」と話す。

 国税庁は今年8~9月に全国約5万6000人の職員が参加する研修を実施したほか、10月からは事前通知や修正申告勧奨時の書面交付といった新手続きを先行実施している。少しでも早く新業務に慣れさせるのが狙いだが、東京国税局幹部は「法人、個人、大企業、中小企業など何を担当している部署かによって異なるだろうが、概ね調査件数は2~3割は減ってしまうのではないか。慣れるまでにはしばらくの時間はかかるだろう」と顔をしかめる。

 民主党のマニフェストに端を発した国税通則法の大幅改正。中野氏は、納税者権利憲章の見送りについて述べた後、引き続き納税者の利益の保護と税務行政の適正かつ円滑な運営を確保する観点から、納税環境整備に向け検討を要請した。

 しかし、民主党政権がぐらつく中、「それらの先行きは不透明で、今後どうなるかは分からない」(財務省主税局)と税務当局は当惑気味。ある国税職員は「民主党のおかげで、税務調査の現場の困惑はしばらく続くということだけは明らか」とぼやく。

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