「解析センター」設置し捜査体制強化 警察庁
成り済まし犯罪予告で誤認逮捕、新手の犯罪に対応【サイバー犯罪】

情報セキュリティー会社などの専門家との連携強化を目的に警視庁が設置した協議会の初会合が開かれた=10月23日

 コンピューターウイルスを利用したパソコンの遠隔操作で他人に成り済まし犯罪予告メールを送りつけた事件は、全国で4人の無実の人が逮捕される事態になり警察当局は衝撃を受けている。警察庁はウイルスに関する情報と解析を一元化するセンターを設置し、捜査体制を強化して新手のサイバー犯罪取り締まりに乗り出した。

 警察庁は11月1日に「不正プログラム解析センター」を新設した。解析センターは、これまで各都道府県警が行っていたウイルスなどの解析業務を一元管理したうえで、情報共有を徹底する組織だ。ますます多様化、高度化するサイバー犯罪の捜査体制を強化する狙いがある。警視庁も民間の情報セキュリティー会社との連携強化を図るなど、警察当局は矢継ぎ早に、サイバー犯罪対策を打ち出している。

 ここまで警察当局に危機感をもたらしたのは、インターネットなどに犯罪予告を書き込んだとして威力業務妨害容疑などで警視庁、大阪府警、神奈川県警、三重県警が逮捕した男性4人(うち、神奈川県警は19歳の少年)が誤認逮捕だったことが10月に入って相次いで明らかになったことが背景にある。

 一連の誤認逮捕で(1)第三者によって仕掛けられたウイルスによってパソコンが遠隔操作され、4人が犯罪者に仕立てられていたことを、捜査段階で見抜けなかったこと(2)新種のウイルスなどサイバー犯罪に対する知識、技術力が欠如していたこと---などが問題となった。

 さらに、真犯人とみられる男性から10月9、10日に「犯行声明」が東京放送などに送られ、取り調べ段階での誘導など捜査上の問題点も噴出した。片桐裕警察庁長官が「誤認逮捕と認めざるを得ない」と発言するまでに追い込まれるなど、警察の捜査への国民の信頼を大きく損なう事態となった。

 コンピューターセキュリティー会社によると、遠隔操作が可能なウイルスは昨年1年間で、世界中では約3億種類が作成されているという。遠隔操作ウイルスは90年代末に登場し、国内でも05年前後から被害が顕著になったという。

 昨年発覚した防衛産業に対するサイバー攻撃事件などでも使用され、防衛関連情報が流出した可能性が指摘されている。ほかにもネットバンキングで、パスワードなどを盗み取り、他人の口座から現金を別口座に振り込ませるなど経済的な利得をもくろんだ犯罪にも利用されてきた。

 一般的にはウイルスを仕込んだ無料ソフトをさまざまな誘い文句でダウンロードさせて、パソコンをウイルスに感染させる手法が使用される。感染したパソコンに入り込んで、パスワードなどを盗み取って、所有者に成り済まして、犯罪を行うという手口だ。今回使用されたウイルスも、業界内では存在が知られたウイルスだったが、これまではサイバー攻撃や経済的な利得を狙った犯罪に使用されてきただけに、「他人を犯罪者に仕立てる」という新たな形態にセキュリティー会社の幹部も「個人を標的にする事案で、従前よりもウイルスに対する警戒が必要になった」と危惧する。

 一連の誤認逮捕の捜査でも、捜査サイドはウイルス感染の可能性も考慮し、誤認逮捕された男性のパソコンのウイルスチェックを行ったものの検出されなかった。消去されていたケースもあるが、捜査サイドのウイルス情報が遅れていたことも災いした。

 警察庁によると、犯罪に使われたサーバーやPCのデータ解析は、全国の管区警察局や各都道府県警の情報技術部門に配属されている専門職員約700人が担当している。ウイルスなどの不正プログラムの解析件数は年々増加しており、昨年は150件だったのが、今年は9月末時点で既に160件に達しており。今後も増加が予想される。

 これまでの解析は、原則として各都道府県警が個別に行い、解析結果を全国で共有する仕組みもなく、「地域によって職員の技術的な格差がある」と指摘されてきた。警察庁幹部も「ネット社会が、組織や地域、さらには国境の壁さえ越えて、展開しているにもかかわらず、警察の捜査が旧態依然として、サイバー犯罪の実態に追いついていなかった」と悔やむ。解析センターの設置は、こうした反省から、ウイルス情報を一元的に管理することで、全国警察総体でサイバー犯罪に立ち向かおうという強い意志の表れでもある。

不正プログラム解析官を指定

 解析センターでは、過去の実績から高度な技術を持つと判断された各地の専門職員約10人を「不正プログラム解析官」として新たに指定。捜査部門からの解析要請を同センターがすべて集約し、ウイルスの難易度などを分析。得意分野に応じて全国の各解析官に割り振るなどして集約した解析結果をデータベース化することで、戦略的な捜査体制の確立を目指す。ウイルスの機能やファイル名、識別情報などを登録し、全国からの問い合わせに応じて情報共有や捜査支援を進める。警察庁幹部は「能力の高い人材を有効活用することで不正プログラムの巧妙化、解析作業の増加に対応したい」と話している。

 インフルエンザと同様にサイバー犯罪も、ウイルスに対する粘り強い対策が求められる。重ねて個人でも、自分のパソコンのウイルスチェックの徹底と不用意なソフトのダウンロードをしないという予防策の徹底が求められる時代になった。

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