解散・総選挙で日銀が政争の具に
異例の政府との共同文書、安倍自民党総裁の日銀法改正論・・・・・・【金融政策】

衆院財務金融委員会に政府参考人として出席し質疑を聴く白川方明日銀総裁(奥右)=国会内で11月7日

 日銀が政争の具にされている。白川方明総裁が「(14年度に)遠からず」達成すると約束した事実上の物価目標(1%)が未達成に終わり、10月30日の金融政策決定会合では異例の2カ月連続の追加緩和を決定。背景には野田佳彦首相が、解散の地ならしとなる「サプライズ緩和」を要求したことがあり、政府との間で事実上のアコード(協定)の異例の共同文書も作成した。衆院が解散されると政権復帰が有力視される自民党の安倍晋三総裁が2~3%の物価目標を掲げて日銀のレジームチェンジを宣言。日銀の景気回復シナリオは政局と同様、不透明感が強まっている。

「何とか市場を驚かせてくれ」。10月下旬、景気判断を3カ月連続で下方修正したことに危機感を覚えた野田首相は日銀との間で事実上のアコードとなる共同文書の作成に踏み切ることを決意。じきじきに白川総裁に電話を入れた。首相が副財務相の時から関係を構築してきた間柄。2人の会話は10分に及んだという。

 なぜ野田首相はサプライズにこだわったのか。官邸と日銀の間でメッセンジャーを務めた経済官庁の幹部はこう振り返る。「首相として最後の決定会合になることを想定し、『サプライズ緩和』を解散の手土産にしようと思ったのだろう」

 首相にとって景気の落ち込みは二つの意味で深刻だった。記録的な円高のまま解散すれば民主党が逆風にさらされるのは確実。さらに、景気の冷え込みが続けば14年4月に予定する消費増税の政治判断にも響きかねない。自民党の安倍総裁は消費増税には慎重なスタンス。政治生命を懸けた消費増税を実現するためにもこのタイミングで市場の景色を一変させることが不可欠だった。

 首相は自ら指示した緊急経済対策の策定を終えると、10月29日に召集された臨時国会の所信表明で「日銀とは更に一層の連携を図る」と宣言。翌30日にまとめる共同文書に伏線を張るように、政府(経済対策)と日銀(金融緩和)の連携によって景気回復を図ることを強調した。

 政調会長として消費増税法案の成立に尽力した前原誠司経済財政相の動きも活発だった。10月1日の就任会見で「私がこの職に就いた以上は強力に緩和を求める」と発言すると、5日の決定会合に閣僚として9年半ぶりに出席。国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会に合わせて来日したFRBのバーナンキ議長、ECBのドラギ総裁とも面会するなど、その存在感を高めながら積極的な金融緩和を訴えた。

 90年代以降の自民党政権は日銀が利上げを模索するたびに政治圧力をかけて反対。野党時代の民主党は日銀の独立性を声高に訴えながら自民党を批判してきたが、いざ政権に就くと自民党と同じ「困った時の日銀頼み」を繰り返した。「(国債などを買い入れる基金の増額は)10兆では足りない」「20兆円の増額を」。日増しに強まる緩和圧力に、日銀からは「祭りの寄付じゃないぞ」といらだつ声が聞かれた。

「非常に、何というか、さびしい構図だなあ」。10月30日、決定会合後の記者会見。白川総裁は憮然とした表情でこう述べ、米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)に比べて、日銀の緩和策が見劣りするとの見方に強い不快感を示した。しかし、日銀内からは「どんなに不満があっても中央銀行の総裁が『さびしい』と言ってはいけない」とその資質を問う声も出始めている。

安倍氏が大胆な緩和策に言及

 11月16日に衆院が解散されると、日銀に対する緩和圧力はさらに激しくなった。自民党の安倍総裁が大胆な緩和策に言及して市場を揺さぶり続けているのに対し、民主党は「日銀の独立性を侵害する発言だ」と真っ向から批判。動向が注目される「第三極」も積極的な緩和策を主張する構えをみせる。

「かつて自民党が政権を担っていた時とは次元の違うデフレ脱却策、大胆な金融緩和を行っていく」。安倍総裁は11月19日、党本部での会合でこうあいさつし、政権復帰時に無制限緩和やインフレターゲットの導入を検討する考えを示した。

 日銀を巡る安倍氏の発言は衆院解散が固まった14日を境にエスカレート。日銀法改正や年2~3%の物価目標に加え、建設国債の日銀引き受けなど「禁じ手」とも言える政策にまで言及。自民党の公約には、現在の日銀法では困難な外国債券の購入という「奇策」も盛り込まれた。

 市場には「安倍発言は実現可能性が低く、リップサービスの範囲内だ」と冷ややかな見方もある。それでも衆院解散が固まった14日以降、外国為替市場では「安倍発言」を材料に半年ぶりの水準まで円安が進行。手応えを感じた安倍氏は「私が講演しただけで円安になり、株価は上がった」とアピールした。

 記録的な円高に長らく苦しんできた企業にとっては、円相場が1円下がるだけで大歓迎の事態だ。総選挙で企業票が自民党に流れれば、民主党にとっては痛手となるだけに、野田首相は中央銀行への政治圧力がインフレを招いた歴史の教訓を引き合いに「中央銀行の独立性を壊す議論が国際社会で通用するのか」と安倍発言を強く批判した。藤井裕久党税制調査会長も「(安倍氏の主張には)断固反対だ。金融を極度に緩めればバブルの再来になることを言って選挙に臨む」と語気を荒らげる。

 市場の関心は総選挙後の政権の枠組みにも向かう。仮に民主党が総選挙で敗退した場合、野田首相に代わって前原経財相が代表に就くとの観測もあるが、前原氏は外債購入を持論とする積極緩和派。安倍氏の言動を批判しつつも「緩和を強力に求める方向性は一致している」とも発言している。

 日本維新の会もみんなの党との共通政策に日銀法改正や大胆な金融緩和を明記した。市場には「政局がどう展開しても、金融緩和圧力がこれまで以上に増す」(債券ストラテジスト)との見方が広がっている。自民党内には「年明けの通常国会に日銀法改正案を提出する」(中堅)との声があるほか、政府内でも金融政策の見直しに向けた水面下の検討が始まっている。

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