テレビはいったい誰のもの? テレビ各局は自社の自浄機能を強め、信用と安心を競い合うべきでは

 吉田拓郎の古い名曲にこんな一節がある。

 「テレビはいったい誰のもの・・・気持ちの悪い政治家どもが 勝手なことばかり言い合って」(「ペニーレインでバーボンを」1974年)

 いつの時代だろうが、政治家の言い分が一方的に聞かされたら、たまらない。それなのに政治家側は言いっ放しを好む。故佐藤栄作首相は72年の退陣表明会見で、こう宣言した。

 「テレビカメラはどこかね。偏向的な新聞は大嫌いなんだ」

 言論の自由や知る権利が侵害されかねない発言だから、記者団は猛反発し、会見場から一斉に退場した。残ったのはテレビカメラだけ。佐藤氏は解説と批評を嫌がったのであり、新聞記者はもちろん、テレビ局記者も邪魔者扱いにした。

大半の有権者が見られない場で行われた党首討論

 時は流れ、最近はネットが好まれている。11月29日、野田佳彦首相と自民党の安倍晋三総裁ら10政党の代表による討論会がニコニコ動画で実施された。民主党が野田氏VS安倍氏の公開討論を呼びかけたところ、安倍氏側がネット討論を提案。

 「インターネットなら制約は少なくなる」

 だが、民主党側は警戒した。

 「ネット右翼と言われる人たちが書き込みをし、問題になっている」(安住淳幹事長代行)

 ニコ動の双方向性を危惧したのである。

 ニコ動は見る側が画面に意見を書き込めるのが売り物の一つ。安住氏は野田氏が集中砲火を浴びることを心配したのだろう。実際、討論中は、「8888」(パチパチパチパチ)という賛同の拍手や、反対に「何言ってもムダ」などの批判が次々と書き込まれた。

 書き込みが有権者の投票行動にどう影響するのかは分からない。なにしろ本邦初のこと。ネットは便利だが、国政選挙を控えた討論の場として適していたのだろうか。書き込みの内容よりも、見る機会が得られた人の数が気になる。

 ニコ動側の説明によると、討論を見たのは約140万人。見られる環境にあった登録会員は約3000万人。ほぼ全世帯で視聴可能なテレビの地上波とは比較にならない。

 大半の有権者が見られる条件ではない場で、投票行動に重大な影響をおよぼしかねない討論が見切り発車的に行われた。高齢者でネットを扱えない人は数多い。ネット世代とそれ以外の人の情報格差を、政治家側がつくってしまったことになる。

 ネットなどによる情報収集がうまく出来ない人を巷では「情報弱者」(情弱)と呼ぶようだが、政治家があえて弱者を生んでどうするつもりだろう。

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