雑誌
パナソニックとシャープこうすれば生き返る
日本の家電を最も知る二人が語り尽くした
岩谷英昭×原田節雄

 こけたら立ちなはれ---。〝経営の神様〟と呼ばれた松下幸之助翁は、逆境に立ち向かう精神を端的にこう言い表した。リストラだけがV字回復の方法ではない。再び立ち上がるために何をするべきか。

技術流出の真相

いわたに・ひであき/'45年生まれ。'68年、松下電器(現パナソニック)入社。米国松下電器の社長、会長などを歴任し、'05年に退社。現在は明治学院大学理事。著書に『松下幸之助は泣いている』など

岩谷 私は'68年に松下電器に入社し、その翌年から米国で約30年間、家電ビジネスの最前線に身を置いてきました。米国松下電器の会長まで務めましたが、今のパナソニックをはじめとする日本の家電の凋落は、国内での成功体験から生じた「驕り」が原因だと考えています。

原田 自分たちが作った物は最高の品質だから多少高くても売れて当然、という考え方ですね。

岩谷 '70~'90年代の成功体験が、驕りを招いたのでしょう。しかし'00年以降、薄型テレビなどを筆頭に家電のデジタル化が進むと、状況は一変しました。半導体や液晶パネルなどの部品さえ調達できれば、どのメーカーでもある程度以上の品質の製品を作ることができるようになった。その結果、韓国のサムスンやLG、米アップルに市場を奪われてしまったのです。

原田 高い性能も大事ですが、それ以上にお客さまが使って喜んでくれることが大切なんです。サムスンの薄型テレビはかつてのシャープやソニーのような斬新なデザインで、なおかつ安い。必要以上に高機能で価格も高い日本製品と比べて、消費者がどちらを選ぶかは明らかでしょう。

岩谷 こういうことがありました。'90年に発売されたパナソニックのテレビ「画王」は、日本国内で当時の販売記録を更新する大ヒット商品でした。当然、米国での発売も決まります。本社からの提案は、日本国内と同じ「画王」、つまり「GAOO」という商品名で売るというものでした。ところが、この綴りでは米国人は「グー」としか読めない。日本語なら「画面の王様」、つまり「画質が最高のテレビ」とイメージできるのですが、米国人には通じません。結局、米国ではぐうの音も出なかった(笑)。

原田 経営危機に直面するシャープも似たような失敗がありそうですね。

岩谷 ええ。たとえば、シャープは三重県の亀山工場で作った液晶テレビを「亀山モデル」として販売し、国内で大ヒットしました。この製品が米国で販売されるようになったとき、私の元部下で、シャープの現地販売会社社長の米国人から「KAMEYAMAとはどんな意味か?」と電話があったんです。失礼ながら、かつてのパナソニックと同じことをしていると、苦笑いしてしまいましたよ。米国人にはまったく訴求力がない。直訳すれば「タートル・マウンテン」だが、高品質の液晶テレビを生産している場所として、日本ではよく知られているとコメントをしておきましたが。

はらだ・せつお/'47年生まれ。'70年からソニーに勤務し、欧州の事業所、人事本部、商品戦略本部、技術渉外室統括室長などを経て、'10年に退社。現在は日本規格協会技術顧問。著書に『ソニー失われた20年』など

原田 そういう「独善」が、パナソニックとシャープの巨額赤字につながった。ソニーにしても、今期は黒字見通しですが、これは金融やエンターテインメント部門、つまり本業以外で業績を維持しているのです。

岩谷 業績の低迷が鮮明になって以降、各社はリストラを推し進めましたが、そのやり方もまずかった。私はリストラの本場、米国での生活が長いからよく知っていますが、不要な人材を切りつつも優秀な人材をいかに残すかが難しい。しかし、日本の企業は年齢で輪切りにして一律にリストラをしたため、優秀な人も大勢出ていってしまいました。韓国や中国のメーカーは優れた技術者が欲しいから、ドアを大きく開けて待っている。結果として、長い年月をかけて蓄積してきた日本の技術が、流出してしまいました。

原田 今の経営者は、社員を機械と同じように見ているのではないでしょうか。私はかつてソニーでリストラに携わりましたが、次の就職先を提示しながらじっくりと説得したものです。ソニーは出井(伸之・現アドバイザリーボード議長)さんが社長になってから、そういうことをしなくなりました。'03年から'12年にかけて約5万人の人員削減を行いましたが、彼らの多くは決して幸せな思いをしていない。その結果、ソニー製品のファンが減っていくということを経営者は理解するべきです。

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