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「馬毛島を中国に売る」と言ったのは防衛省幹部だ 所有者が怒りの告白!
馬毛島の全景。十字に表土が削り取られた部分は、立石氏が滑走路として工事を進めた部分だ('11年撮影)〔PHOTO〕橋本 昇
島に抵当権を設定して金融業者から工事代金などを借り入れているという立石氏。「国を守ることに理解を示す金融機関はないものでしょうか」と嘆く〔PHOTO〕船元康子

「中国に売るなんてまったく考えていません! 冗談でも私の口から出る話ではありません」

 こう憤るのは、鹿児島県西之表市の馬毛島のうち99・6%の土地を所有する「タストン、エアポート」の立石勲会長(79)だ。種子島の沖12kmに浮かび、面積8.2km2と無人島としては国内で2番目に大きい馬毛島は、米海軍の空母艦載機の発着訓練の候補地である。この島に滑走路を建設し、自衛隊の基地として整備した上で米軍に利用してほしい防衛省は、現在、島を取得すべく立石氏と交渉中だ。

 だが、それに冷や水をかけたのが『週刊ポスト』(11月16日号)だった。「日本の領土・馬毛島 地主が『島を中国に売る!』と言い出した」との見出しで、立石氏が防衛省との交渉を打ち切り、中国に売り渡すと報じたのだ。〈(馬毛)島がいま政府関係者の関心を集めている。発端は、(中略)立石勲氏のこんな発言が政府に伝わったからだった。『中国の企業が何社か接触してきている。日本の対応次第では売ってもいい』〉(抜粋)と書かれ、ネット上には立石氏を売国奴扱いする書き込みが溢れた。現在、尖閣諸島や竹島の領有権問題で中国・韓国との関係が悪化する渦中にあり、過剰な反応につながったのであろう。

 だが、当の立石氏はこう反論するのだ。

「香港やマカオ、上海の不動産開発業者の仲介役を名乗る人物らが私に接触してきたのは事実ですが、私は日本の国防のためにこの島を使ってもらいたいと思っていますから、相手にもしませんでした。どうしてこんな話になるのでしょうか」

砂埃をあげて行き来する重機が〝滑走路〟を建設中。島が立石氏の私有地のため、ナンバーのない車も目立つ〔PHOTO〕橋本 昇(以下同)

 立石氏によると、「中国に売りたければ売ってしまえ」との立場を見せるのは、防衛省側なのだという。いったいどういうことか。今年3月28日午後、立石氏は東京・市ヶ谷の防衛省で同省幹部らと、馬毛島譲渡に関する協議を持った。立石氏はまず、島の購入や島の整地工事などの資金として金融機関から150億円以上を借り入れたことを説明。こうした事情を汲んで借入金の返済猶予を金融機関に働きかけてほしいと求めたほか、島の取得条件を決めるにあたり、多額の資金を投じてきたことへの配慮を求めた。

賃貸か、買い取りか

 これに対し、防衛省の幹部は金融機関に働きかけることはできないとし、島を買い取るにあたっても「金額については防衛省としても出せる限度というものがある」と、立石氏の求める金額の10分の1程度を示した。これに立石氏が反論した際に幹部の口から飛び出したのが、

「私だったら、中国がいい条件を示してくれば、島を中国に売るでしょうね」

 という発言だったという。

「ぜひ島に基地を建設してもらいたいと思っていただけに、この発言に驚きました。『中国に売りたければ、売ってしまえ』ということではないですか。私が『島を中国に売る』と言っているという噂が流れる背景には、こうした防衛省側の姿勢があるのではないでしょうか」(立石氏)

 その後も毎月のように防衛省幹部と立石氏の協議は続けられているが、条件をめぐって現在も双方の主張は平行線をたどったまま。金額のほかに大きく主張が隔たっているのが、契約の形態だ。立石氏が島を賃貸することを求めているのに対し、防衛省はあくまで買い取りを要求している。防衛省が賃貸を受け入れないことについて立石氏はこう主張する。

固有種であるマゲシカの群れを現場で見掛けた。自然保護の観点から、地元から基地建設反対の声も上がる

「沖縄県内の米軍基地では、国が地主に毎年借地料を支払っています。例えば、馬毛島のおよそ半分の面積の普天間飛行場は用地の92%が私有地で、地主には1坪あたり毎年5000円前後支払っている。沖縄では賃貸を認めて、馬毛島には認めないという理屈は納得できません」

 こうした立石氏の主張に頭を抱えるのが防衛省だ。まず、売買か賃貸かについて、防衛省関係者はこう説明する。

「防衛省は年々値上がりする沖縄の米軍基地の軍用地料に手を焼いています。その額は今年度で932億円にも上り、しかも年々上がり続けています。これに懲りて、基本原則として現在では基地用地を取得する場合、買い取りのみとなっています。'15年度末までに陸上自衛隊部隊を配備予定の与那国島でも、駐屯地用地は買い取りを想定しています。馬毛島だけ特別扱いというわけにはいきません」

 その上でこうも述べるのだ。

「島を賃貸するにしても買い取るにしても、国の予算ですから、財務省や国会に説明できる額にしなければならない。そのためにまず馬毛島の土地鑑定評価をきっちりやって評価額を出したいのですが、それすら実現できていません」

 進まぬ馬毛島交渉にしびれを切らし、6月上旬には米軍関係者が直接、現地での調査を希望した。一時は実現に向けて準備が進んだが、事前に一部メディアに報じられたこともあって中止となった。米軍サイドも、空母艦載機の発着訓練だけでなく、中国の活発な動きで緊張が走る東シナ海への備えとして馬毛島を活用したいとの強い意向があるとされる。

 国防上の要地を国が直接確保に動くといえば、今年9月にさいたま市内に住む地権者から国が買い上げた尖閣諸島(魚釣島、北小島、南小島)のケースが念頭に浮かぶだろう。購入額は20億5000万円。地権者の言い値で政府は買い取ったとされる。立石氏と防衛省がお互いの妥協点を見いだす日は来るのだろうか。

「フライデー」2012年11月30日・12月7日号より

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