「息子と僕のアスペルガー物語」 ライフ
奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第5回】
「お前は天才だ」と呼ばれた日

【第4回】はこちらをご覧ください。

奇妙な緊張感に包まれた教室

 もしも僕の人生を振り返って年表を作るなら、決して欠かすことのできない「あの出来事」が起きたのは、今から25年ほど前。蒸し暑い7月のある日のことだった。

 その日、僕が暮らす町では、朝からずっと雨が降っていた。鬱陶しい雨は勢いを弱めながらも、僕たちの登校中も降り続いていた。まだ梅雨が終わる気配はなかった。

 教室に入ると、クラスメートたちは皆、何やら落ち着かない様子だった。隣や前後の席同士で二人組になって、ヒソヒソと小声で数学や英語の問題を出し合う連中がやたらと目についた。

 普段は教科書を学校に置きっぱなしにして、「勉強なんか人生の役に立たねえんだよ。体力と人間関係がありゃいいんだ」と、威勢よく"世間のすべてを知っているかのような口"をきいて同級生の尊敬を集めていたIは、深刻そうな表情で教科書をのぞき込んでいる。その隣の席の生徒は、もう何もかも諦めてしまったかのように、机の上に突っ伏したまま動かない。

 とにかく、いつもなら騒々しいはずの朝の教室は、奇妙な緊張感に包まれ、静まり返っていた。

 それにはもちろん、理由があった。その日は、僕たちが夏休みを迎える前の最後の難関、期末テストが実施される日だったのである。

躍り上がって喜ぶほどの大ニュース

 しかし---。

 この日の僕には、期末テストよりも大事なニュースがあった。それは、前夜に起こったばかりの、とても嬉しいニュース。僕は朝起きたときからそのことを誰かに話したくて、ずっとウズウズしていた。だから教室に入ると、何はともあれ、この思いを共有できるはずの2人の同級生の姿を探した。

 目指す2人、サッカー部のTとバレーボール部のMは、すぐに見つかった。2人は他の同級生と離れて、窓際の壁にもたれかかり、ヘラヘラした様子で何かを話し込んでいた。予想通り、あの嬉しいニュースの話題を交わしているに違いない。僕は興奮気味に2人の元に駆け寄ると、声をかけた。