経済の死角

スクープした記者が明かす
恐怖の「胆管がん多発事件」はなぜ起こったか【後編】

文・立岩陽一郎(NHK記者)

2012年11月22日(木)
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【前編】はこちらをご覧ください。

規制されてないけど、吸ったら危険な物質ですよ

立岩陽一郎氏

問題と見られる洗浄剤を作っているメーカーは、愛知県にあった。取材交渉は難航するかと思いきや、二、三度の電話のやり取りで「取材に応じてもいいですよ」という答えが返ってきた。私はさっそくそのメーカーを訪ねた。

質問に答えてくれたのは、工場長という肩書の年配の男性だった。彼は次のように説明してくれた。

「(問題となった)洗浄剤に含まれているのは、『ジクロロメタン』と『1,2-ジクロロプロパン』。どちらも塩素系の化学物質です。

このうち、ジクロロメタンは有機溶剤中毒防止規則で規制されており、取り扱いに規則があります。まず、取り扱う際は防毒マスクの着用が義務づけられています。また、利用者は特別な健康診断を半年に一度受ける必要があります。一方、1,2-ジクロロプロパンに規制はありません」

マスク着用を義務づけられるほど毒性のある化学物質を使っていることを、印刷会社SANYO-CYPはわかっていたのだろうか。従業員たちはマスクなど着けていなかった。そして、規制されていないもう一つの化学物質。本当に規制の必要はないのか---。私の疑問はつのるばかりだった。

工場の中を見せてほしいと頼むと、工場長は困った顔をしたが、会社の名称を一切表に出さないことを条件に、製造ラインに案内してくれた。

製造ラインでは、ジクロロメタンを主な成分とする洗浄剤が作られていた。ペットボトル大の容器が横一列に動いていく。詰め込み場に来ると、管が容器の口の部分に密着して、シューという音を立てる。化学物質が液体の状態で詰め込まれる瞬間だ。

その詰め込み場には、壁に排気口が設けられている。工場長はこう説明した。

「あれで『局所排気』をやっているんです。だから臭いがしないでしょ。それが大事なんです。臭いがするということは、有毒な物質が充満しているということですから。排気装置の設置も、ジクロロメタンを扱う上での規則で義務づけられていますよ」

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