奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」
2012年11月17日(土) 奥村 隆

奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第4回】
教科書を丸ごと脳にプリントする方法

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【第3回】はこちらをご覧ください。

母の胎内にいたときの記憶

 「大人の発達障害」だと医師に告げられた---。

 ショックが冷めやらぬまま、僕は息子と共に病院を出た。医師の前でパニックに陥りかけて冷や汗をかいた後に、今度は炎天下の猛暑による汗がどっと噴き出してきた。普段なら気持ちが悪くてうんざりしているはずだが、もう、どうでもよくなっていた。何も考える気力がなくなり、足取りだけがひたすら重かった。

 その僕を、さらに息子が驚かせた。彼は突然、こんなことを言い出したのである。

 「お父さん、さっき先生には言ったんだけど、僕、お母さんのお腹の中にいたときの記憶があるんだ」

 「本当か? どんな記憶だ」

 「ボンヤリした、うす~い赤い色の中に僕がいて、目の前に長い紐が伸びている。そんなことを覚えているんだよ」

 その言葉を聞いて、僕は息子の手を握ったまま立ち尽くしてしまった。歩こうにも足が動かない。異変に気がついたらしい息子が、心配そうにこちらを見上げる。

 「どうしたの? 何か変なこと言っちゃった?」

 我に返った僕は、急いで「違うよ。何でもない」と言って息子を安心させ、再び駅への道を歩き始めた。でも、全身が震えて止まらなかった。それは、息子から、母親の胎内にいたときのことを記憶していると打ち明けられたからではない。

 僕はこのとき、自分と同じ記憶を持つ人間に、生まれて初めて出会ったのだった。しかも、その人間が、他でもない「愛する息子」だったことに、驚愕しながらも深く感動していたのである。

次ページ  そう。僕の脳に刻まれている最…
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