米CIA長官の不倫事件で改めて認識された、電子メールの持つ際限の無い破壊力

不倫問題で辞任したデビッド・ペトレイアスCIA長官(写真は陸軍大将時代)〔PHOTO〕gettyimages

 米CIA(中央情報局)のデビッド・ペトレイアス(David Petraeus)長官を辞任に追い込んだ不倫事件を巡る調査が、電子メールの取り扱いに関する思わぬ議論を呼んでいる。

 既に日本のメディアでも報じられているが、改めて事件の概要を紹介しておくと、事の発端はペトレイアス氏の友人であるジル・ケリー(Jill Kelley)氏(女性)に送られた匿名の脅迫メールだった。この内容に身の危険を感じたケリー氏は、知人であるFBI捜査官(男性)に相談。ここからFBI(米連邦捜査局)の捜査が始まった。

 ケリー氏の了承を得て、彼女に送られた脅迫メールを検査することで、FBIはこの脅迫メールがジャーナリストのポーラ・ブロードウェル(Paula Broadwell)氏(女性)から送られたものであると推定した。メールには「私の男(ペトレイアス氏のこと)に気安く触らないで」などと書かれていたため、ケリー氏とペトレイアス氏の関係をブロードウェル氏が疑い、それを嫉妬するあまり脅迫メールを送りつけたと推定された。

 ブロードウェル氏は、かつて泥沼化したイラク戦争を終結に導いたことで米国の英雄となったペトレイアス司令官(当時)に密着取材し、ペトレイアス氏の自叙伝を同氏と共著で書き上げていた。しかし、その過程でペトレイアス氏とブロードウェル氏(いずれも既婚者)の「不適切な関係」を疑う声も聞かれていた。

ポーラ・ブロードウェル氏の自宅からPCを押収するFBI捜査官〔PHOTO〕gettyimages

 以上のことから、FBIはブロードウェル氏の自宅を訪れ、事実関係を問い質すと、ブロードウェル氏はペトレイアス氏との不倫をあっさり認め、彼女自身のメール・ボックスをFBIが検査することも了承した。そこにはブロードウェル氏とペトレイアス氏の間で交わされた何通もの親密なメールが残されていた。

 これによって不倫の事実関係を確認したFBIは、大統領選挙の結果が確定した直後、ホワイトハウスに報告した。ペトレイアス氏も不倫を認め、オバマ大統領に辞表を提出。その翌日、大統領はペトレイアス氏の辞任を了承した。

捜査自体が公私混同との見方も

 この事件について、米国のメディアは辞任したペトレイアス氏に対しては同情的で、むしろ捜査を行ったFBIに対して批判的な論調が目立つ。米国では軍人の不倫は軍法違反とされている。また、もしも二人の関係が中国やロシアの諜報機関などに察知されていたとすれば、これをもとに彼らがペトレイアス氏を恐喝し、米国の国家機密をゆすり取る危険性も確かに存在した。

 幸いにして、今回はそうした事態には至らなかったものの、上記の諸事情を勘案するとペトレイアス氏の辞任はやむを得ない、とする見解が主流だ。が、その一方で、「そもそも、二人の女性(ブロードウェル氏とケリー氏)の痴話喧嘩のような私的事柄に、どうしてFBIが組織的な捜査をすることを決めたのか。そちらの方が本当の問題ではないか」とする論調が目立つのだ。

 そもそも(脅迫メールを送りつけられた)ケリー氏が最初に相談を持ちかけたFBI捜査官は、かつて自分の裸の写真をケリー氏にメールするなど、彼女に特別な感情を抱いていたことが分かった。このため同捜査官は、今回の不倫事件からは外され、別の捜査官があてられた。

 つまり最初から公私混同の疑いがある上、それを事実上、了解したうえで、FBIが今回の捜査に本腰を入れたことに一種の批判がなされている。これについては、ケリー氏がペトレイアスCIA長官の知人であったことから、「要するにFBIとCIAの権力抗争ではないか」との見方もあるのだ。

 今回の事件でもう一つ特筆されるのが、電子メールの持つ際限の無い破壊力である。最初は、「たかが痴話喧嘩の捜査」と見られたメール検査が、あっという間にCIA長官の辞任へと結び付いてしまった。

 また当初FBIに助けを求め、事件の発端となったケリー氏自身が、彼女のメール・ボックスをFBIが捜査することで、今度は彼女と現アフガニスタン駐留米軍司令官ジョン・アレン(John Allen)氏との不倫疑惑が持ち上がるなど、芋づる式にスキャンダルが暴露されつつある。

 アレン氏はNATO(北大西洋条約機構)の次期最高司令官の最有力候補と目されていたが、ペトレイアス氏も含め、世界の安全保障を担う人たちが、こんなことをしていて大丈夫なのだろうか。

 ペトレイアス氏とブロードウェル氏は不倫を続けている間は、共にプライベートなGmailアドレスを設けて、これによって連絡をとっていたとされる。しかし、まかり間違えば二人とも(機密情報などが満載された)仕事用のメール・ボックスを不倫に使っていたかもしれない。

 今回のような事件を契機に、CIAやFBIなどが国家機密の保護を口実にして、今後、政府関係者や民間人のメール・ボックスを検査するための、より強い権限を求めるようになるのではないか、との懸念も浮上している。

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