経済の死角

スクープした記者が明かす
恐怖の「胆管がん多発事件」はなぜ起こったか【前編】

文・立岩陽一郎(NHK記者)

2012年11月15日(木)
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立岩陽一郎氏

大阪市の印刷会社の従業員や元従業員の間に、極端に高い率で胆管がんの患者が見つかっている事件については、すでに各メディアで報じられているのでご存じの方も多いと思う。これまでに17人が発症し、そのうちの7人が死亡している。

私はNHK大阪放送局に記者として所属していたとき、この異様な事実を知って取材を重ね、初めて報道した。その後も取材を続けている。そのいきさつや、これまでの番組で伝えきれていない内容を報告したい。

両親も病院に呼ばれた

10月4日の朝、本田真吾(30歳)は、大阪市阿倍野区にある大阪市立大学付属病院に入った。

受付までにはまだ時間がある。1階奥にある喫茶店に入った彼は、コーヒーと菓子パンを口にしながら話し始めた。

「今日これから入院して、明日から検査です。先生からは『ご両親にも来ていただくように』と言われました。両親は後で着替えなんかを持ってきてくれます。もう僕も30なのに、入院に両親の同意が必要なんですかねぇ・・・」

本田は不安そうな顔に、無理に笑顔を作って話した。彼も、入院の手続きのために両親が呼ばれたわけではないことを知っているのだろう。

検査の目的は、胆管がんの有無の確認だ。胆管とは、肝臓で作られる胆汁を十二指腸に送る細い管のこと。肝臓の内側から伸びており、内側を肝内胆管、肝臓の外に出ている部分を肝外胆管と呼ぶ。

本田はすでに胆管炎を発症している。そして腫瘍が見つかっている。カルテに「胆管がんの疑い」と書き込まれたときは、打ちのめされたような気持ちになったが、「今は落ち着いています」と言う。

「明日の検査が終わったら、連絡します」

コーヒーに軽く口をつけただけで、本田は入院の手続きに向かった。

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