金融2社の新規業務進出に異論
認可権者の金融担当相と郵政民営化担当相が対立[日本郵政]

全国銀行協会の佐藤康博会長(左)と会談する下地幹郎郵政民営化担当相(右前)。この席で下地氏は勉強会発足を提案した=東京都内で10月4日

 改正郵政民営化法(今年4月成立)の施行によって、10月1日に再スタートした日本郵政グループ(日本郵政)。民営化を軌道に乗せるためには、金融2社(ゆうちょ銀、かんぽ生命)の新規業務進出が必要となるが、民間金融機関の反発もあり政府認可は難航が予想される。新規業務が認められなければ、グループの収益も上がらず、親会社の日本郵政の政府株売却も低調に終わる。改正法の大義名分だった「保有株売却益による復興予算確保」の道のりは険しい。

 日本郵政が認可されているのは、死亡保障を低くした分保険料を安くした改訂版学資保険(かんぽ生命)▽住宅ローンや法人貸付(ゆうちょ銀)――などだ。日本郵政は9月の認可申請の際、「来年4月の新規事業スタートを目指す」と表明した。これに対して、民間金融機関や生命保険各社は「政府が100%出資する日本郵政には、暗黙の政府保証がついている。公平な競争ではない」と猛反発している。

 認可は、第三者機関「郵政民営化委員会」(委員長・西室泰三東芝相談役)の意見を尊重して、最終的に総務省と金融庁が決定する。その最終認可権者の一人である中塚一宏金融担当相と、新規業務を推進したい下地幹郎郵政民営化担当相の間には、審査のスピード感をめぐって見解の相違が見え隠れする。

下地氏「(新規業務開始の希望時期は)来年4月と決まっている。ずるずると結論を出さないことはできないので、すみやかに出してもらえるよう金融庁と協議したい」

中塚氏「金融庁としては、内部管理体制、コンプライアンス、リスク管理もあり、一定の時間をかけてしっかり審査する」

 金融庁は、日本郵政の参入が他金融機関に与える影響、つまり業界全体への影響も考慮する方針なのだ。

 郵政民営化によって、07年に5社体制でスタートした日本郵政。親会社の下で、郵便局と郵便事業は別個会社だった。この結果、留守中の荷物受け取りが、従来の郵便局窓口ではなく、郵便事業会社窓口(ゆうゆう窓口)に行かなければならず、窓口で混乱が起きた。また、過疎地で利用の多かった配達員による通帳預かりサービスは廃止された。利用者から「不便になった」と批判された。

 改正法は「行き過ぎた民営化」を是正するため、郵便局と郵便事業を再統合して、日本郵政を5社体制から4社体制に変更した。また、改正法成立によって、日本郵政の新規業務進出が可能になった。さらに、政府保有の日本郵政株も3分の2までは売却できるようになった。これは法案審議に当たって、新規業務で企業価値を高める→政府保有の日本郵政株を売却する→売却益を震災復興の原資にする――という筋書きで与野党の思惑が一致したからだ。財務省によると、政府保有株は簿価で約10兆円。3分の2を売却すれば7兆円以上の収入が国庫に入る試算だ。

政府売却益7兆円の皮算用

 この皮算用も、そもそも新規業務が認められなければ絵に描いたモチに過ぎない。最大の課題は、民間金融機関の理解をどう得るのかだ。

 下地氏は、10月1日の就任直後、銀行や生保の業界団体に勉強会を発足するよう呼びかけた。勉強会構想は、日本郵政と民間金融機関で、新規業務のあり方や、両者のすみ分けについて話し合い妥協点を探ろうという趣旨だ。

 勉強会を申し込まれた金融機関は、下地氏に対して「日本郵政の完全民営化時期や政府保有株の売却時期を明示するべきだ」と主張している。「日本郵政に『暗黙の政府保証』をいつまで続けるかを明らかにせずに新規業務だけ認めるのは不当」との言い分だ。

 これに対して下地氏は「総務省などと相談してスケジュールを示したい」と明言。下地氏の発言を受けて、日本郵政は10月26日に「15年秋の上場を目指す」との計画案を明らかにした。下地氏、日本郵政とも、民間側に理解を示して、新規業務推進への原動力としたい考えだ。

ただ、3年間での上場は現実味に乏しく、総務省や金融庁からは「新規業務認可を得るためのアリバイ作りに過ぎない」「認可を受けたいのならば、もっときちんとした計画案を示してほしい」と厳しい言葉が投げ掛けられている。

 中塚氏と下地氏の対立が顕在化する中、注目を集めるのが郵政民営化委の西室委員長の発言だ。郵政民営化委も9月から新規業務の審査をしており、日本郵政、民間金融機関双方から意見聴取を重ねている。

 西室委員長は、中塚、下地両氏の立場の違いについて「それぞれの担当業務に従った発言をしているだけ」と理解を示した。その上で「両大臣の発言を受け止めて新規業務を審査する。『タイミングを尊重するためにしっかり審議しなかった』とは言われたくない」として、日本郵政が求める「来年4月の新規事業開始」にはこだわらず審査に当たる姿勢を示した。

 新規業務の申請者・日本郵政と、異議を唱える民間金融機関。新規業務を推進したい下地氏と、審査を慎重に進めたい中塚氏。そして中立なご意見番である西室氏。意見集約には時間がかかりそうだ。改正法が成立して、制度上は新規業務解禁と政府保有株売却への道が開けた日本郵政だが、その道筋はもうしばらく定まりそうにない。

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