アダム・スミスの「生きるヒント」 第21回
「"経済学の父"が唱えた幸福論」

第20回はこちらをご覧ください。

 アダム・スミスは経済学者である前に、哲学者でした。そして、スミスの哲学や道徳観が、「スミスの経済学」に大きな影響を与えていたことは明らかです。つまり、スミスの経済理論は、「道徳哲学」の中に含まれているのです。

 『道徳感情論』と『国富論』を読んで感じたのは、スミスは人間の生き方(道徳論)と経済環境(経済理論)を、どちらも人間の幸福のために考えていたのではないか、ということです。

 なぜ道徳的に正しく生きるべきなのか? それは「幸福」を手に入れるためです。なぜ経済発展が必要なのか? それは「幸福」を手に入れるため、なのです。

 では、スミスが考えていた「幸福」とは何だったのか? どうすれば人間は「幸福」を手に入れることができるのか?

 スミスが遺した『道徳感情論』『国富論』それぞれの中に、「幸福」の定義を読みとることができます。今回はそれを紹介します。

人間の「幸福」とは「心の平静」を手に入れること

《原 文》
健康で、借金がなくて、しかも心の中に何らやましいところのない人の幸福には、それ以上いかなる幸福を加えることができるであろうか(『道徳情操論』P118)

《意 訳》
人間の幸福とは「健康で、負債がなく、良心にやましいところがない状態」のことである

 この一文に、スミスの主張の全てが凝縮されています。これがスミスの結論なのです。

・「健康」でなければ、人は幸せになれない。
・「借金」に悩まされていては、人は幸せになれない。
・「心にやましいところ」があれば、人は幸せになれない。

 そしてこの3つの条件は全て同じところに行きつきます。それは「心の平静」です。

 つまり「心穏やかに生きる」ということです。スミスは著作の中で、何度も「心の平静」について触れています。それは全てここでつながるのです。

《原 文》
幸福は平成と享楽とに存する。落着きを失ってはなんら楽しみもありえない。そして心が完全に落ち着いているときには、いかなるものといえどもわれわれをたのしませえないものはほとんどありえない(『道徳情操論』P322)

《意 訳》
幸福は平静と享楽にある。平静なしには享楽はあり得ないし、完全な平静があるところでは、どんな物事でも、ほとんどの場合、それを楽しむことができる

・「健康」でなければ、「心の平静」を得られないので、人は幸せになれない。
・「借金」に悩まされていては、「心の平静」を得られないので、人は幸せになれない。
・「心にやましいところ」があれば、「心の平静」を得られないので、人は幸せになれない。

 これが、スミスが唱えた幸福論でした。

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