奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」
2012年11月03日(土) 奥村 隆

奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第2回】
フォトグラフィックメモリーの持ち主

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【第1回】はこちらをご覧ください。

曖昧な言葉を絶対に許さない

 僕たちが病院の中に入ったのは、予定より15分早い午後3時15分のことだった。

 いつまでも見知らぬ住宅街をぶらついているわけにもいかず、やむなく病院の前に行ったが、まだドアは閉ざされていて入れない。息子に「あと何分?」と何度も尋ねられ、僕がそれに丁寧に答えているうちに、猛暑の中で汗だくになっている親子を見て気の毒に思ったのか、病院のスタッフが早めにドアを開けてくれた。

 たった14分(息子に言わせれば13分)の待ち時間に息子が言った「あと何分?」は、10回を超えていたはずだ。

 息子は病院内に入るとすぐに、壁際に並べられた一冊の本を手に取り、一心不乱に読み始めた。その横で僕は、受付で渡された問診票に、息子の行動で気になる点を詳細に書き込んでいく。

 いつもニコニコしているのだが、本当は他人と人間関係を構築するのが不得手(嫌い?)なこと。事前に立てた計画を崩されたり、予想していない出来事が起こったりしたとき、うまく対応できないこと。時間に非常に細かいこと・・・。医師に伝えたいことはいくらでもあった。

 10分ほどかけて問診票にぎっしりと書き込み、受付に提出すると、すぐに診察室の中から「どうぞ」という声が聞こえてきた。本から顔を上げた息子が、僕の手をぎゅっと握って尋ねてきた。

 「お父さん、怖くない?」

 息子は、初めて行く場所が大の苦手だ。そこで起きることが事前に予想できず、行動計画を立てられないからである。

 小さな頭の中で、最悪の事態が起こることを勝手に想像して、ひどく怯えてしまう。このときが典型だった。僕は、息子の不安を取り除いてあげようと思って答えた。

 「優しい先生だと思うよ」

次ページ  ところが、息子の表情は急速に…
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