足許で円の弱含み傾向が続いており、約6ヵ月ぶりに1ドル=80円の壁を越えた。為替市場の動きをみて、輸出企業の経営者も胸をなでおろしていることだろう。それに伴い、株式市場では輸出関連の主力銘柄が買われ、インデックス自体もしっかりした動向を示している。
今回の円安傾向の背景には、わが国の貿易収支の赤字基調が続いていることに加えて、ソフトバンクの米スプリント・ネクステル社買収に係る円売り・ドル買いの思惑、日銀がさらなる金融緩和策を実施するとの期待がある。
ただし、これで円高傾向が完全に転換したと判断するのはやや尚早だろう。わが国の状況を考えると、円安がさらに進みそうな材料があるものの、米国の経済状況や、ユーロ圏の信用不安問題など、世界経済が抱えるリスクファクターは根強く残っている。それらの問題の展開次第では、再び、円が買われる局面がやってくる可能性は否定できない。
わが国の経済状況などを見ると、円が売られる材料が目につく。毎月の貿易赤字は縮小する気配が見えず、当面、赤字トレンドが定着する動きを示している。それに加えて、ソフトバンクをはじめとしたわが国企業のM&A案件が出ている。また、日銀の金融緩和策はこれからも続くとみられる。
また、ユーロ圏の信用不安問題は、現在、小康状態を保っており、直ぐにスペインなどの国債が大きく売り込まれる懸念は低下している。そうした状況を反映して、投資資金の一部がリスク資産へ流れ込み始めており、リスクオンの動きが目立つようになっている。
これを見て、ヘッジファンドなどの投機筋が、円買い=円ロングポジションを手仕舞い始めている。シカゴのIMM(インターナショナル・マネタリー・マーケット)の円買い建玉残高が顕著に減少している。