2012.10.31(Wed)

『食欲の科学』 著:櫻井武
食欲、それは
脳が生み出す極上の快楽

筆者プロフィール&コラム概要

 先日、テレビで「あなたは、目玉焼きにソースをかける派ですか、醤油をかける派ですか?」という議論がなされていた。だがフランス流にいえば、これはどちらもおかしいということになりそうだ。以前、フランス人から聞いた話だが、「冷奴に醤油をかける」のは(フランス料理流にいえば)正しいが、「サンマに醤油をかける」のはおかしいのだそうだ。

 フランス料理には三百種以上のソースがあり、基本的にメインとなる食材にはそれと同じ系統の材料から作られたソースが添えられる。たとえば牛肉にはフォン・ド・ボーなどをベースとしたソースをつかう。だから、大豆を原料とした豆腐に同じ大豆から作った醤油をかけるのは正しいが、魚に醤油をかけるのはおかしいということになるのだ。

 フランス料理には実にいろいろな哲学がある。たとえば、材料となる素材がもともともっている成分をすべて料理に生かし切ることが重要とされる。だから日本料理にみられるような「臭みを抜く」ための湯通しや、水にさらしたりする技法は用いない。臭みがあればハーブなどを添えてそれさえも生かすという考え方なのだろう。

 グラタンの基本となる調理法「グラタン・コンプレ」では、すべての食材は生のままソースの中に閉じ込められてから、火がすべての素材にほどよい加減で通るまでオーブンで焼かれる。このときにソースの表面にこんがりと焦げ目がつくことになる。生の素材から調理することで、素材のもつおいしさを構成する要素はすべて、ソースの中に閉じ込められたまま供される。

 また、肉や魚をソテした場合は、そのフライパンの中にワインを注いで、肉から外に出てしまった肉汁をブイヨンやワインの水分によって「回収」して調味料で味を調え、ソースとして供される。「デグラッセ」という基本的な手技である。いかに素材のもつ要素が大切にされているかがわかると思う。

『食欲の科学』
著者:櫻井 武
講談社新書 ブルーバックス / 定価861円(税込み)


◆ 内容紹介
人はなぜお腹がすくのか? 飢餓を克服した人類がそれでも空腹をおぼえるのは、脳のしわざだった。食欲のメカニズムを解き明かす!

脳は体重を一定に保つべく、食欲を巧妙にコントロールしている。しかし、ヒトはときに自分の食欲を制御することができなくなってしまう。食欲を「魔物」に変えるのもまた、脳なのだ。脳内で食欲がつくり出されるしくみを脳生理学のトップランナーが解き明かし、「ヒトの食欲」のメカニズムに迫る。
 
 
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