アダム・スミスの「生きるヒント」 第19回
「政府の役割と"効率"を求めることの副作用」

第18回はこちらをご覧ください。

 一般的には、アダム・スミスは、「自由取引」「規制反対」「政府は市場に介入するな」と主張したと思われています。そのイメージは正しいのですが、一部修正が必要です。

 というのは、このイメージから考えると「スミスは政府を不要と考えた」と誤解してしまうからです。実際は、スミスは"ある部分"については、政府の役割を重視していました。そして、なくてはならないものと考えていたのです。

政府は邪魔をしがち。でも必要

 スミスは、基本的に"私利に基づいた自由な取引"を肯定しています。なぜなら、その方が経済発展しやすく、富が増え、貧困がなくなり、国民が救われるからです。

 この自由取引がなければ、社会は望ましい成長を遂げない、ということになり、自由取引を妨げる規制などは、社会の利益を害している、ということにもなります。

 政府が市場にかける規制も同じです。政府が市場に介入して、自由取引を妨げてしまうと、それはそのまま社会の不利益につながります。だから政府は市場に余計な手出しをしてはいけない、というのがスミスの基本的な考え方です。

 このように、スミスは、政府が市場に口出しをすることに反対していました。そのため、現代では「スミスは政府を完全に不要と考えていた」と認識している方も少なくありません。でもそれは誤解です。

 スミスはすべての政府機能に反対したわけではありません。スミスが反対したのはあくまでも「市場メカニズムに余計な干渉をすること」「自由取引の妨害になるような行為」であって、それ以外の必要なものは必要と考えていたのです。

 その証拠にスミスは"経済学の目的"として以下のふたつを挙げています。

●国民が自分で必要な物資、収入を手に入れられるようにすること
●政府が、公務を行うのに必要な資金を調達できるようにすること

 経済学の第一の目的は、「国民に十分な富を分配し、国民の生活を豊かにすること」「どうすれば国民に富を供給できるかを考えること」です。要するに"国民のため"です。これはこれまで紹介してきたスミスの理念を考えれば、想定通りの内容ですね。

 そして第二の目的が「政府(国家)の活動費を工面すること」「どうすれば政府が活動費を確保できるかを考えること」なのです。つまり"政府のため"ということです。

 この文章から、スミスは政府の必要性を明確に認めていたことが分かります。スミスが政府の役割として考えたのは、大きく分けて以下の3つです。

1) 国防
2) 司法・警察
3) 公共事業(インフラ整備)・教育

 これら3つは、民間事業としては成立せず、どうしても国家が主導して行わなければいけないのです。

 まず国防です。これを民間企業が代行できるとは到底思えません。企業が発展した現代でさえ国家の代役を務められる大企業は存在しません。市場経済ができたばっかりの中世ではなおさらです。だから当然政府が行わなければいけないのです。

 また、司法と警察も国が行わなければいけません。治安維持や善悪の判断をする機関が民間企業であってはいけないことは容易に想像がつくと思います。

 最後に、公共事業(インフラ整備)です。道路や橋の建設など民間の企業では、とても採算が取れないような大規模な事業は、国が行うしかありません。

 ここで注意しなければいけないのは、"公共事業"の内容です。わたしたちは、公共事業という単語から景気対策や"バラマキ政治(癒着&賄賂)"をイメージします。でもスミスが言っているのは景気対策ではなく、純粋な"インフラ整備"のことです。

 そもそも、景気対策のために公共事業を行うというのは、ケインズ経済学の発想で、20世紀に入ってから出てきた考え方です。世の中の需要が不足しているので、政府が国民・民間企業の代わりにお金を使って、需要を増やそう、仕事を増やそう、というのがその基本的な理論背景です。つまり、商品の供給はできるけど需要が足りない、という世界なのです。需要が足りないから、公共事業で需要を増やそうとしているわけです。

 しかし、スミスが生きていたイギリスは、モノをほしくても買えない世界でした。要するに、需要はたくさんあるのに供給できないモノ不足の世界です。そんなときに、さらに需要を増やすための政策を行う意味はありません。

 そして、この公共事業(インフラ整備)の中には、道路や橋などのコンクリートの製造物だけでなく、"教育"も入っています。スミスは政府の役割として"教育"を掲げているのです。

 一体どういうことでしょうか?

 これを理解するためには、少し回り道して"分業のデメリット"について理解する必要があります。

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