常に変わりゆく、答えのない時代に求められる「フラックス世代」のリーダーシップとは

米ビジネス誌『ファストカンパニー』2012年2月号(左)と11月号(右)の表紙

 「フラックス世代」という言葉を耳にしたことはありますか?

 フラックス(flux)とは「不安定さ、流動、絶え間ない変化」を指す言葉です。ビジネス、テクノロジー、経済、政治などがめまぐるしいスピードで変化する今の時代に、こうした変化に適応しながら成功している人々を「フラックス世代」として、米ビジネス誌『ファストカンパニー』が2012年2月号に特集記事で取り上げ、話題になりました。この記事の翻訳版は「"常識"のない時代に輝く人たち あなたは『フラックス世代』ですか?」として、「クーリエ・ジャポン」誌(2012年7月号)にも掲載されました。

 「フラックス世代」は、従来の「ジェネレーションX」や「ベビーブーマー世代」のように特定の年齢層などの属性で定義されるのではなく、人が持つ心理学的な特性、ものの考え方(サイコグラフィックと呼ばれることもあります)によって定義されます。

 不安定な状況を積極的に受け入れ、これまでのキャリアやビジネスモデル、常識などを修正することに抵抗がなく、それをむしろ楽しむ余裕すらある---。そんな人々がこの世代に属します。

 記事の中では、ソーシャルメディアニュースサイト「マッシャブル」CEOのピート・カシュモア氏、著名ベンチャーキャピタル「グレイロック・パートナーズ」などでデータサイエンティストとして活躍するDJ・パテル氏、GEのチーフ・マーケティング・オフィサーのベス・コムストック氏、そして著名インタラクティブエージェンシー「R/GA」の創業者兼CEOのボブ・グリーンバーグ氏(この方は63歳です)らが、時代の最先端を走る体現者として紹介されていました。その後も、同じテーマに関する特設ページが設けられています。

「フラックス世代」に求められるリーダーシップとは

 掲載当時から話題を呼んでいた「フラックス世代」の記事。やがて、この記事を読んだ経営者やビジネスリーダーたちから、「『フラックス』な時代に、どうしたら自分の会社や組織を率いることができるのか」という問い合わせが、筆者で同誌編集長のロバート・サフィアン氏のもとに殺到したそうです。

 そんな背景もあり、『ファストカンパニー』11月号の表紙には、「How to lead in a time of chaos (カオスの時代にどのようにリーダーシップを発揮するか)」と題する記事が掲載されることになりました。

 11ページに及ぶ続編の記事の中では、「フラックス世代」に求められるリーダーシップを体現する新たなリーダーが数多く紹介されています。一人ひとりのストーリーを読んでいると、静かに起こりつつある変化のインパクトの大きさに驚かされます。今回はその中で、注目すべき3名を紹介したいと思います。

●アーロン・レヴィ(Aaron Levie)氏は、法人向けクラウドストレージサービス「Box」の共同創業者兼CEOで現在27歳です。

 レヴィ氏が南カリフォルニア大学在学中の2005年に寮の一室で起業し、中退した後に仲間と立ち上げた法人向けクラウドサービスBoxは、現在、社員数600人を超え、シリコンバレーで最も注目を集めているスタートアップ企業のひとつです。Dropboxのように、あらゆるデバイスで利用可能なパーソナルなクラウドサービスを法人向けに提供しており、同社のサービスは現在、約12万5000社に利用され、有料ユーザーも数十万人にのぼります。推定企業価値は12億ドルとも言われています。

 レヴィ氏は「もはや、長年培われたブランド力やディストリビューションチャンネルの規模は、必ずしも強みを発揮するわけではなく、変化にすばやく対応できる小規模スタートアップだからこそ、これまでは巨大企業が大きな力を持っていた法人市場に革命を起こすことができる」と語っています。

●クララ・シャイ(Clara Shih)氏は現在30歳、2011年2月にサービスを開始した大企業向けのソーシャルメディアプラットフォームサービス「Hearsay Social」を提供する会社の共同創業者であり、CEOです。他にも2011年12月、史上最年少でスターバックス社の取締役に就任し、著書『Facebook Era』(2009年3月発売)の著者でもあることから、時代の最先端を走る「フラックス世代」を代表する人物として選ばれています。

 Hearsay Socialは現在、大手金融機関を中心に利用されているサービスで、フェイスブック、ツイッター、リンクトイン、グーグル・プラスなどの運用を通じて、コンテンツ、ワークフロー、コンプライアンスの管理と分析を可能にします。特に組織の中の階層構造を重視し、コンプライアンスを遵守しながら、顧客、社員などすべてのステークホルダーに対してコミュニケーションをとることができる点が評価されています。

 階層構造というと、一見ネガティブな印象を与えますが、世界中に1万7000もの店舗を持つスターバックスのような企業では、「ミルクが毎日決まった時間に届く」といったことや、組織として統一したブランドメッセージの発信など、規律が求められることも忘れてはならない点です。

●トロイ・カーター(Troy Carter)氏は、ソーシャルメディアを活用したエンターテイメント・アーティストマネジメント会社「Atom Factory」のCEOで、レディー・ガガのソーシャルメディア戦略を取り仕切っている人物として知られています。

 カーター氏が主張するのは、サイズが小さいからこそ機敏に動けることのメリットです。「ナップスターやiTunesの登場で、音楽業界には大変革が起きたにもかかわらず、音楽業界のコスト構造や経営陣の顔ぶれ、メンタリティなどはちっとも変わっていない」と、カーター氏は指摘します。

 氏はまた「ソーシャルメディアを最大限に活用するデジタル・ネイティブなアーティストにとっては、レーベルの力がなくても直接ファンとつながり、収益を挙げることができる時代が到来した」とも付け加えます。

 現在、たった20名でレディー・ガガの会員限定サイト(約70万人)の企画運営を行いながら、音楽業界以外でも多くの案件にも取り組んでいる同社にとって、「社員数が25名や30名を超えるようなことは想像できない」と語っています。仮に組織が大きくなっても、小さいものであるかのように感じられることが大切、とのことです。

参照:「レディー・ガガのソーシャル帝国を操る黒幕、トロイ・カーターという男
WIRED VOL.4 August 15, 2012

 以上、あくまで記事の一部の紹介ではありますが、新しい「フラックス世代」のリーダーの姿の一端を感じ取っていただけましたでしょうか。ビジネスの置かれている状況が短期間で大きく変化することが十分にありうる中、変化に富み、不安定であることを楽しみつつ、機敏に適応する能力が今ほど求められている時代はないと思います。この「フラックスな時代」を楽しみながら乗り越えていく人が一人でも多く生まれていくことを願っています。

本記事に関するご意見、ご質問、フィードバック等は筆者のFacebookページまでお願いいたします。ツイッターは@socialcompanyです。

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