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特別座談会 出版・新聞の校閲者、『大辞林』の編集者が語り明かす あなたの日本語、ヘンです 流行語、日常語、ニュース用語 日本語の世界はここまで深い

 言葉のうつろいはめまぐるしい。新語、流行語、死語。誤用が罷り通っていたり、意味が変化してしまうこともある。「日本語力の低下」と言うのは簡単だけど、では「正しい日本語」って一体何だろう?

五輪報道で間違いだらけ

原田 この夏日本はロンドン五輪に沸きましたが、私たち校閲者も五輪関連で面白い体験をさせてもらいました。というのは、記者からあがってきた五輪の記事原稿に、おかしなものが結構あったんです。

 例えば卓球女子団体戦でメダル獲得を決めた日本代表選手が、感極まって「顔を互いの胸にうずめる」という一文がありました。これ、よく考えてみると不自然なんです。

大嶋 ああ、体勢的にかなりしんどいというか、ちょっと無理がありますね。

原田 そうなんです。迷った末に「肩にうずめる」と直しました。それから、これはうっかり見落としてしまったのですが、「インドの女性選手らはサリーに身をまとって入場行進」という一文。後で後輩から「これ、おかしくないですか」と指摘されて慌てて「サリーを身にまとう」に直しました。

山本 助詞の「に」と「を」の順番が違うだけで、華やかな光景のはずがとてもシュールな画になる。

大嶋 校閲者は誤字脱字をチェックすることだけが仕事じゃないんですよね。原田さんがおっしゃったような、さらっと読めてしまうけれど、よくよく考えるとおかしな日本語にも気をつけなくてはいけない。僕は出版社で書籍や雑誌を担当していたのですが、ある程度時間に余裕があったのでじっくりと取り組むこともできました。新聞は毎日校閲しなければならないわけだから、大変ですよね。

原田 校閲の作業というのは、日がな一日文字とにらめっこする非常に地味な作業だと思うのですが、毎日新聞社の校閲部では日本語の豆知識的な話をツイッターで紹介していて、現在そのフォロワーが8000人近くもいるんです。

大嶋 意外に関心が高いんですね。

原田 そのなかで、読者からの反響が大きかったものに、こんな例がありました。

 松田聖子さんが再々婚されたときに、田原俊彦さんがブログに「3度目の結婚、おめでとうございます! 4回目がない事を友達として心から願っております!」と書いたんです。

山本 辞書を見ると、「度」と「回」で少し意味合いが違うんですよね。

原田 ええ。「度」というのは繰り返して欲しくないことを数えるのに、「回」というのは繰り返しが期待されるものを数えるのに使います。トシちゃんの「3度目の結婚」「4回目がないことを」という書き方は、正しく使い分けされているんです。