"脱原発"を支えるのは政府や大企業に頼らない市民の実行力だ! 南ドイツの「地域暖房」や「エコハウス」を視察して感じたこと
フライブルク市で最初に建ったパッシブハウス(筆者撮影)

 「黒い森」南部の保養地セント・ペーター村で、地元の林業エンジニアが中心になって事業化に漕ぎ着けた廃材利用の「バイオマス地域暖房」システム。補助金はもちろん銀行融資さえ受けられなかった時代に市民が建てたフライブルク市ボウバン地区のエコマンション――。

 先週(10月16日から6日間の日程で)、視察した南ドイツで、センスの悪い政治家や既得権に拘るユーティリティ企業に依存することなく、市民たちが自らの手で再生可能エネルギーへの切り替えや節電に取り組む姿を見ることができた。

 ドイツでは、こうした市民たちのコミュニティベースの取り組みが端緒になって国策が見直されている。福島の原発事故を機に原発への反対を強める多くの国民と、そうした要求を経済性・実現性を無視した空理空論と決め付ける経済界の間の大きなギャップを埋められないでいる日本にとって、とても大きなヒントになり得るのではないだろうか。

ビジネスとして成功したバイオマス

 北九州市など国内の環境都市のモデルとして名高いフライブルク市から車で小一時間。海抜720m前後のカンデル山中腹に広がる、セント・ペーター村。決して広大な面積を持つわけではないが、1093年に大きな修道院が築かれたのがきっかけで開かれた歴史あるヨーロッパらしい古い山村だ。

 1890年代に、その修道院が閉鎖された時と、1970年代から80年代にかけて「酸性雨」に見舞われた時の2度にわたって、セント・ペーター村は存亡の危機に見舞われたものの、なんとか切り抜けてきた歴史を持つ。

 現在の村の人口は2550人。ギリシア、スペインの財政破綻に端を発した欧州経済危機の真っただ中にあって、環境・エコを売り物に高成長を維持して失業率を3%前後に抑え込んでいるフライブルク市の北東に隣接する幸運もあって、「人口は増加傾向にある」(ルドルフ・シューラー村長)。

 そのセント・ペーター村に、今年1月、村民の自慢のタネがまたひとつ増えた。復活した「黒い森」の林業の副産物である廃材をチップ化したバイオマスを主たる燃料に使う地域ぐるみの暖房施設が稼働したのだ。

 この暖房施設は、バイオマス燃料でお湯を沸かし、地下に埋設した全長9.2kmの配管を通じて200戸に熱湯を循環させて地域ぐるみで暖房をする仕組みだ。

 この設備でのバイオマスの使用率は全体の95%あまりに達する。石油はバックアップ用に限定しており、その使用量は5%程度に過ぎないのだ。この結果、これまでと比べると年間約80万kl分の石油を節約できたばかりか、同じく2100㌧分のCO2の排出削減(効果)も実現したという。

 何よりも凄いのは、主燃料の木材チップが従来は使途がなく廃棄していたもみの木などの廃材を原料としていることだ。この結果、事業主体は住民組合の形式であり、営利事業ではないにもかかわらず、「ビジネスとしても高い採算を誇っている」(マルクス・コナード理事)という。

 その省エネ効果の高さや地元産のバイオマス燃料の使用比率の高さが評価されて、EU、ドイツ連邦政府(復興金融公庫)、バーデンバーデン州の3主体から総投資額の520万ユーロ(約5億2000万円強)に対して、4分の1に当たる125万ユーロの政策支援を受けた。

 これにより、住民組合は給湯ネットワーク1mに付き80ユーロ、住民は引き込み工事1戸に付き1800ユーロの補助を受けている。

 暖房の使用料金は「民間のユーティリティ会社のそれより平均で3割程度安い」うえ、料金構成も、住民にとってありがたいものだ。一般のユーティリティ企業の場合、使おうが使うまいが必要な基本料が70%、使用量に応じた従量部分が30%の構成になっているが、セント・ペーターの住民組合ではこれが逆になっているという。

 これ以外に、住民組合は風力や太陽光の発電設備を保有、発電も行っているが、潤沢なキャッシュフローを活用して、来年1月をめどに木材バイオマスのガス化発電を導入する計画だ。

 セント・ペーター村の積極的な取り組みの推進役として見逃すことのできない働きをしているのが、前述のマルクス・コナード理事のような人物だ。

 コナード氏は、地元の林業のエンジニア出身で、黒い森の2200ヘクタールに及ぶ地域の維持・管理を担当してきた。旧ソ連のチエルノブイリ原発事故や地球温暖化問題に触発されながら、大量に廃棄されていた木材の破片の再利用に着目。エネルギー分野の知識を取得して、当初11人の仲間を集めて運動の核を作り、最終的に200人のコミュニティをまとめあげて、組合活動を進めてきたという。

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