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第2部 元海上自衛隊指揮官×東京新聞論説委員 プロは知っている 自衛隊のほうが中国海軍より強い 川村純彦×半田滋
中国よ、日本が勝つ

原潜持ってても怖くない

半田 昨年7月1日に中国大使館で共産党創立90周年記念日のレセプションが行われた際、お土産に'09年10月に行われた建国60周年の軍事パレードの模様を、日本語のナレーション付きで収めたDVDが配られたそうです。

 それを見た幹部自衛官によると、パレードそのものは統制が取れていて練度も高いとの感想を持ったが、上空を飛ぶ飛行機が一様に古かったというのです。自衛隊のF-15戦闘機は「第四世代機」に分類されますが、DVDに登場する中国の戦闘機はいずれも第三世代機で、飛び方も不安定だった、とのことです。

川村 中国軍の戦力は不透明な部分が多いですが、海自出身の私から見ると、やはり中国はまだ「近代戦を戦えるレベルにはない」ですね。特に、「対潜水艦能力」、つまり敵潜水艦を発見する能力が低く、これは致命的な欠陥です。

 30年前の冷戦下で、私は対潜哨戒機のパイロットとして旧ソ連の潜水艦を追跡する任務に就いていましたが、当時はほぼすべての潜水艦を探知できていました。哨戒機は「ソノブイ」という水中の音を拾うマイクロフォン付きのブイを搭載していて、これを目標近くの海面に撒いて相手の動きを探知できる。

 しかし中国には、対潜水艦戦の主役となる大型の対潜哨戒機がわずか4機しかないうえ、これまでソノブイを使った訓練をした形跡も見られない。
要は、我々が30年前に行ってきたことさえできていないということです。

半田 艦船もひどいものです。'07年に中国の「深圳」というミサイル駆逐艦が晴海埠頭に寄港したので、自衛官と一緒に見学に行ったのですが、対空ミサイルはフランス製のコピー、短魚雷はアメリカ製のコピーという具合に、いかにも中国らしく、コピー品の寄せ集めでした。対空機関砲も4門あったがすべて手動。自衛隊は20mmのファランクスという全自動、アメリカは「ゴールキーパー」という、30mmの強力な全自動対空機関砲を持っている。そういう最新鋭の装備と比べると、中国のそれは「なんちゃって機関砲」と言ってもいいのではないでしょうか。

川村 艦船と言えば、かつてウクライナから購入した空母「遼寧」(旧名ワリャーグ)が最近、中国海軍に引き渡されました。式典に胡錦濤主席や温家宝首相も出席するほど中国は空母に力を入れているようですが、はっきり言ってこの空母は艦載機を飛ばすことさえ、ままならないでしょう。

 米国の空母には、艦載機を加速させるカタパルトという射出機が備えられています。これがあるからこそ、100m足らずの滑走距離で甲板から航空機は飛び立つことができるのですが、遼寧にはその装置がない。

 遼寧の場合、300mの飛行甲板の前方をスキー板のように反らせた「スキージャンプ方式」です。少しでも飛行機が上向きに発射できるような設計ですが、これでは燃料や弾薬を満載した30t近い艦載機を、離陸に必要な時速250km以上に加速させることは不可能で、この方式での発艦はまず不可能です。

半田 肝心の艦載機の開発も遅れていますね。中国はロシアのSu(スホイ)-33という機体を元にJ-15という艦載機を作ろうとしています。ウクライナからSu-33の試作機であるT10K-3を入手し、分解してコピーしようとしていますが、エンジンの仕組みがわからない。そこで中国は本物のSu-33を買おうとしたところ、勝手にコピーしようとする姿勢に激怒したロシアが戦闘機を売ってくれないため、開発が足踏み状態になっています。

川村 中国には攻撃型原潜が6隻ありますが、いずれも航行中に発生する雑音が大きいので、すぐに発見されてしまう。艦船の機能も満足ではなく、さらに潜水艦を探知できる能力もない。仮に中国の艦隊が日本に侵攻してきたとしても、日本には22隻の潜水艦がありますから、中国軍に対処することはそう難しいことではないはずです。

半田 そうした戦力的な差は、当然中国も把握しているでしょう。そのうえで、なぜ中国があれほど尖閣を欲しがるのかを理解するには、中国の真の狙いを知っておく必要があります。

 一般的には、中国は尖閣付近の海底資源の確保を狙っていると言われますが、それだけではない。

川村 その通りです。中国の本当の狙いは「核抑止力を米国並みに高める」こと。それを達成するために、尖閣が必要なのです。

 順を追って説明します。中国はかねてから台湾を支援してきた米国に対抗できる軍事力を持とうとしていましたが、果たせずにいます。そんな中、'96年に中国の面子を潰される決定的な事件が起きます。

半田 いわゆる「台湾海峡危機」ですね。'96年3月に行われた台湾総統選挙において、独立を訴える李登輝総統の再選が有力視された際、これを嫌った中国が軍事演習と称して台湾沖にミサイルを撃ち込んできた。

 あわせて中国人民解放軍の熊光楷・副総参謀長は「台湾問題に米国が介入するなら中国は西海岸に核ミサイルを撃つ」と脅しました。

 ところが、これに対して米国が2隻の空母やイージス艦を周辺海域に派遣したところ、中国は台湾に手出しできなくなった。

川村 中国はアメリカの核抑止力に完全に屈したわけです。このときもしも米中全面戦争となっていれば、最終的に核攻撃能力が上回る米国に中国は破れていたのは自明ですから。

 そしてこの屈辱的な事件の反省から、中国は核抑止力を高めようとするのですが、とりわけ重要視されたのが潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)でした。

 核戦力としては大陸間弾道ミサイル(ICBM)や、航空機に核弾頭を積んで爆撃する方法がありますが、これらは相手にたやすく察知されるため、発射前に撃破されてしまう。しかし潜水艦なら深海に潜航するため簡単には発見されないので確実に報復できる。

 この考えは旧ソ連と同じです。旧ソ連はオホーツク海に敵対兵力を寄せ付けない聖域とするため、海域の防護を強化し、核ミサイル潜水艦を配備した。これにより、旧ソ連は冷戦崩壊までアメリカと同等の核抑止力を保つことができた。そして中国が聖域としたいのが、南シナ海なのです。

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