IPS、原発、オカルト、遺伝子組み換えまでメディアやニセ科学者にだまされるな!
科学を正しく恐れる「科学リテラシー」を身につけよう

2012年10月22日(月) 田村 耕太郎
PHOTO:Getty Images

洗濯機を直せる大人はいるか?

 今回は学生や若手社会向けの話というより、日本人全体向けに教育の話をしたい。それは理科系の正確な知識と分析力を身に着けることの大切さである。科学技術に支えられた現代だからこそ、理科系出身であろうとなかろうと最低限かつ最先端の基礎的な科学の知見を学び続ける必要がある。

 われわれは日々の暮らしの中で科学技術の恩恵を受けている。製品やサービスがどんどん便利で操作も簡単になり、逆に技術や仕組みをまったく理解せずに高度な科学を利用している。その結果、われわれの科学への理解はむしろ昔より劣化しているのではないかと思う。

 ノーベル賞を受賞した山中伸哉教授が受賞の知らせを初めて聞いた時、洗濯機を修理しようとしていたところという。本当だろうか?今の洗濯機を修理できる一般の方がどれだけいらっしゃるだろうか?

 さて、その山中教授がノーベル賞を受賞して大きな話題になっているiPS細胞。これについてどれだけの人が正確に理解しているだろうか。私は、iPSを正確に理解せずに、期待だけがバブル並みに大きくなり、これでは山中教授も心境は複雑だろうと察する。

実用化されている再生医療技術はIPSではない!

 iPSは細胞を初期化する技術に過ぎない。木に例えれば、幹からせっかく枝や葉になったものを幹に戻すようなもの。細胞の段階をもとに戻すような技術でしかないのだ。その細胞が多能性であり、様々な可能性を秘めていることは確かだが、現段階では移植時の安全性や効果も確認できていない。

 一方、同じ幹細胞でも、すでに実用化されているのは生身の人間の脂肪細胞等から取り出す生体幹細胞。これを使った再生医療はiPSとはけた違いの実用化が進んでいる。こちらは移植時の効果や安全性が確認されている。生体幹細胞を使った再生医療は、日本国内だけでは1000件以上の実用化が行われている。これに比べて、IPS細胞の実用化は世界でゼロである。実用化実績がないIPSはあれだけ有名なのに、実用化が進む生体幹細胞を使った再生医療は意外なほど知られていない。

 そして、再生医療の現場ではこのような国民の不正確な知識に付け入り、悪質で詐欺に近いニセ再生医療がはびこり、すでに深刻な被害者を出しおり、消費者庁が目をつけ始めている。iPSを悪意を持って売名行為に利用しようとした森口尚史氏のような例はすでに出ているが、これからはさらに悪質な詐欺的行為が出てくるかもしれない。




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田村 耕太郎

(たむら・こうたろう) 前参議院議員。エール大学上席研究員、ハーバード大学研究員などを経て、世界で最も多くのノーベル賞受賞者を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で唯一の日本人研究員を務めた。
国立シンガポール大学公共政策大学院名誉顧問、新日本海新聞社取締役東京支社長。
1963年生まれ。早稲田大学卒業、慶応義塾大学大学院修了(MBA取得)。デューク大学ロースクール修了(法学修士)、エール大学大学院修了(経済学修士)、オックスフォード大学上級管理者養成プログラム修了、ハーバード大学ケネディスクール危機管理プログラム修了、スタンフォード大学ビジネススクールEコマースプログラム修了、東京大学EMP修了。
2002年から10年まで参議院議員を務めた間、内閣府大臣政務官(経済財政、金融、再チャレンジ担当)、参議院国土交通委員長などを歴任。
シンガポールの国父リー・クアンユー氏との親交を始め、欧米やインドの政治家、富豪、グローバル企業経営者たちに幅広い人脈を持つ。世界の政治、金融、研究の第一線で戦い続けてきた数少ない日本人の一人。
2014年8月、シンガポールにアジアの地政学リスクを分析するシンクタンク「日本戦略情報機構(JII)」を設立。また、国立シンガポール大学(NUS)リー・クワンユー公共政策大学院の兼任教授に就任し、日本の政府関係者やビジネスリーダーに向けたアジア地政学研修を同校教授陣とともに実施する。
著書に『君に、世界との戦い方を教えよう 「グローバルの覇者をめざす教育」の最前線から』などがある。