奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」
2012年10月27日(土) 奥村 隆

奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第1回】
時間に細かすぎる親子

upperline

突然、苛立ちがエスカレートするとき

 僕と息子がその病院を初めて訪れたのは、8月下旬の、とにかく暑い夏の日だった。

 僕たちが病院の最寄り駅で電車から降りたのは、午後3時ちょうど。一日で一番気温が高くなる時間だった。文字通り、うだるような熱と湿気が押し寄せて、全身からどっと汗が噴き出した。

 でも、駅のプラットフォームに立った僕をイライラさせたのは、その暑さなんかじゃなかった。そんなことは、正直、どうでもよかった。

 僕にとっての最大の問題は、何よりも、予約した診察時間までこれから30分もあることだった。病院はまだ昼休みの時間帯とかで、中に入れない。やむなく、何かをしてその時間を潰すしかなかった。「30分もあるんだな」と、僕は息子に言い聞かせるともなくつぶやいて、改札口を出た。

 駅の周りを見渡しても、息子と一緒に入って時間を潰せるようなファミリーレストランはないようだし、こういうときに一番頼りになる本屋も見当たらない。駅前の住宅地図を見ると、1㎞(息子は「1.2㎞だよ」と主張した)ほど道なりに進めば、コンビニエンスストアがあるようだ。

 でも、今からそこまで行って、本や雑誌を立ち読みして、そのあと病院まで戻るには、30分という時間は短すぎる。十数年、テレビ番組を作り続けてきた人間として、暇さえあれば出版物に目を通して世の中の動きをウォッチするのが習い性になっているのだが、今はいくら何でも無理だ。こうなれば、外をブラつきながら、時間が経つのを待つしかない。

 まったく、どうして30分も余分な時間があるんだよ---。そう思うだけで、僕の苛立ちはさらにエスカレートしてきた。悪い癖だが、どうしようもない。  僕は普段、物事に腹を立てたり、感情的になったりすることがほとんどない人間だ。ニコニコしていることが多いねとよく言われるし、自分でもそう思う。

次ページ  しかし、僕の中にはいくつか「…
1 2 3 4 5 6 次へ

このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
関連記事


underline
アクセスランキング
1時間
24時間
トレンドウォッチ
編集部お薦め記事