アダム・スミスの「生きるヒント」 第18回
「あなたは経済成長にどんな意味を見いだせるか?」

第17回はこちらをご覧ください。

 「経済成長は必要なのか?

 この問いは永遠のテーマかもしれません。特に経済成長と人間の幸せが相反するものとして議論されることが多く、答えが出ない哲学的なテーマとして話されています。

 ここであらためて「なぜ経済成長が必要なのか?」を考えてみなければいけません。

 スミスは経済成長を「貧困救済」と「失業者救済」のため、と考えていました。しかし現代では、このスミスの理論をそのまま考えることはできません。というのは、世の中にはすでに「富」があふれていて、これ以上の増産は不要だからです。また、「経済成長をすれば失業者が完全にいなくなる」ということでもありません。

 たしかに、経済が発展すれば、失業率を低下させることができます。

 日本経済もサブプライム問題、リーマンショックが起こる2007年まではGDPが増加し、景気が拡大していました。それに伴って、失業率は、2003年の5.5%から2007年には4%以下にまで低下しました。この間は「実感なき景気拡大」と揶揄されていましたが、失業者は約100万人も減少(約360万人→約260万人)していたのです。

経済成長が国民の幸福につながるか?

 では、そのまま経済成長が続けば失業者はいなくなったのでしょうか? 国民は幸せになったのでしょうか?

 そう問われると、自信を持って「Yes」とは答えられません。なぜでしょうか?

 そのひとつの原因に、"現代では、仕事を選ぶようになっているから"ということが考えられます。

 経済成長をすれば、働き口が増えるはずです。しかしそれが労働者個人個人の"やりたい仕事"とは限りません。そして皆が"やりたくない仕事"を拒んでしまえば失業者が減るとは限らず、失業者が自尊心を取り戻せるとも限らないのです。これはスミスが想定していなかったことでしょう。

 大学生の就職活動にこの「仕事選び」の傾向が顕著に表れています。来年春に大学卒業見込みの学生のうち、2012年7月末現在で、約42%が就職先未定という状況です。

 といっても、求人がないわけではありません。地方の中小企業は、人材不足に悩んでいます。また、農業や林業など後継者不足に悩んでいる産業も多くあります。世の中に仕事がないわけではないのです。

 まだ内定が決まっていない学生が4割以上いるのに、一方では人材不足に悩んでいる企業がいるということです。

 では、なぜこのような状況が起こっているのでしょうか?

 端的に言うと、学生の応募が大手企業に集中しているのです。大手企業への応募者は非常に多く、地方の無名大学の学生は説明会の予約すらとれない状況といいます。つまり、一部の超有名企業には応募が殺到し、その他の企業への応募は極端に少なくなっているのです。

 就職先を選ぶのは悪いことではありません。最低限の生活が憲法で保障されているのですから、その次に考えたいのは「自己実現」です。そのために仕事を選ぶのは自然な発想です。ただし"その「選ぶ基準」が合理的であれば"、です。

 "格好いい会社にしか入りたくない"
 "当然、高い給料がほしい"
 "やりたい仕事以外はしたくない"

 これでは、いくら経済が発展しても、失業者は減らないでしょう。わたしたちの意識が変わらなければ、スミスの理論が有効に機能しないのです。

 「経済成長しても、自分たちには何も恩恵がない」
 「不景気だから、やりたい仕事に就けない」
 「就職活動がうまくいかないのは、制度が悪いからだ」

 そう嘆く前に自分の意識を変える必要があるかもしれません。現代では、生活に余裕が出てきた分だけ、より「社会の眼」を気にするようになっています。

 「大学を卒業したのだから、大企業に入らないと恥ずかしい」
 「周りがこういう生活をしているから、自分もそうしないと負けてしまう」
 「就職人気ランキングで上位にいる企業しか受けたくない」

 こう考えて、自分の首を自分で絞めてしまってはいないでしょうか?

 スミスが指摘したように、人間は「他人の眼」を気にする生き物です。この感情は現代人のほうがより強いかもしれません。

 スミスは、他人の目を気にする軽薄な人が経済成長の原動力となると分析しました。わたしは、「経済成長を求めること」「社会的地位を上げていこうと努力すること」がくだらない行為だとは思いません。スミスは"軽薄な行為"としましたが、「他人から評価されたい」「認めてもらいたい」と頑張ることが"軽薄"とは思いません。むしろ素晴らしい心意気だと思います。

 しかし、他人の眼を気にしすぎて、仕事を選り好みしてしまうと、話は変わります。相応の努力もせず、他人の眼を気にして「選り好み」をするのは、スミスがいう"軽薄な行為"です。自身がこのような考えをしているうちは、いくら経済が発展しても、そのメリットを享受できないでしょう。同時に、幸福にもなれないでしょう。

 つまりは、経済成長が自動的に"自分たちの幸福"につながるわけではないのです。

 「経済成長が意味があるのかどうか」、「それに意味を見出すか」は自分次第で、また「意味があるものにできるかどうか」も、わたしたち次第です。「経済成長が国民の幸福につながらない」と感じたとき、もしかしたら自分の考え方を変える必要があるのかもしれません。

 もはや「経済成長は意味があるのか?」ではなく、「自分は経済成長にどんな意味を見いだせるか?」と問うべきなのです。

著者:木暮 太一
『いまこそアダム・スミスの話をしよう』
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何が正しくて、何が間違っているのか? 人間の幸せとは何なのか? なぜ経済発展が必要なのか? いまこそ、アダム・スミスが経済学を創った真意を知り、人間の生き方と幸福を考え直す時。

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