官々愕々
問題だらけの生活保護見直し議論

〔PHOTO〕gettyimages

 生活保護制度見直しの議論が本格化している。

 その直接の動機は、3・7兆円まで膨れ上がった生活保護の予算をどうやって抑えるかということと、不正受給の増加をどう防ぐかということだ。しかし、今の論議の仕方には違和感を覚える方も多いだろう。

 まず、働きたくても働けなくて深刻な困窮状態にある人が、ちゃんと生活保護を受給できているかという問題が置き去りのままだ。

 また、生活困窮者を食い物にした生活保護ビジネスなどと、某芸能タレントの扶養義務問題を同列に取り上げて、親族の扶養義務を強化しろというような議論につなげるのも問題だ。

 生活に困っていないのに、生活保護以上に税金で保護されている人々がたくさんいるということも忘れられている。例えば、農家の戸別所得補償や高齢者の医療負担の軽減措置などは、貧しくなくても対象となる。

 しかし最大の問題は、働ける世代での受給者が激増していることだ。生活保護を若い時に長期間受給すると、就労意欲が失われて生活保護から抜け出すことが難しくなると言われる。このままでは生活保護は将来にわたって増え続けることになる。以前は65歳未満だと、失業だけでは生活保護が受けられなかったが、リーマンショック後の深刻な事態に対応するため、厚労省の通知によって3年前からこの慣行が事実上なくなった。

 本来は、失業者がいきなり生活保護に陥るのを防止するための制度(第二のセーフティネット)を準備すべきだったのだが、厚労省が動いたのは問題が深刻化してからだった。失業者が職業訓練を受ける間の生活費を毎月10万円給付したり、さらに必要な資金を無利子融資するという制度だ。訓練を行う団体にも多額の補助金が、就職とは関係なく支払われた。2年で約2兆円もの資金をバラまいたが、その結果は惨憺たるもので、まともな就職にはつながらないし、形だけの訓練を行って大金をせしめる不良業者も多発した。

 世論の批判を浴びて、昨秋から就職実績に応じて訓練機関への報酬に差がつくようになった。厚労省が6月末に発表した資料では、この制度で訓練をした人達の就職率は7割前後となっている。しかし、発表資料では、就職先がコンビニのアルバイトなのか正規の雇用なのか、何ヵ月継続雇用されたか、などがわからない。数字自体眉唾ものだ。このままだと、悪い条件でもいいから就職させて実績を上げ、追加報酬を受け取る業者が続出するだろう。訓練生に若干のリベートを払って見掛け上再就職したことにするという不正が出ることも必至だ。

 この事態を改善するにはどうしたらよいか。厚労省直轄のハローワークの職業あっせん能力は極めて低い。そこで、訓練を請け負う民間組織に、訓練だけでなく就職あっせんまでやらせればよい。その上で、失業者の属性(年齢、職歴、技能など)や就職実績(正規か非正規か、給与額、勤続年数)などを追跡調査もして、実績に応じた報酬を支払えば、不正も減るし、効果も格段に上がるだろう。

 しかし、そのような改革は出来そうにない。ハローワークの独占的利権を守るために、職業あっせんに広く民間参入を認めることには厚労省は大反対だし、就職あっせんの結果を厳格に評価する仕組みを作ることも、それをハローワークに適用されると困るので、厚労官僚は反対するだろう。

 その実現を自民、民主の官僚主導政治に期待しても無理だ。この問題の解決には、第三極を中心にした改革派の政権が出来ることが必要である。

『週刊現代』2012年10月27日号より

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