コミュニケーション能力の「ある人」と「ない人」【ビジネス篇】『わかりあえないことから』著者・平田オリザ インタビュー

2012年10月18日(木)
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──そうした、他人を出し抜こうとか他人よりも目立とうとしない若手社員に対して、いまの管理職世代が「物足りない」と感じるのは、ある種、共感できる気もするのですが。

平田 でも、ここで大切なのは、「個別の競争がいい」というのは僕たち世代特有の価値観であって、普遍的な価値観ではない、ということです。

 いまの若者たちというのは、そういう世代なんだということを、管理職のみなさんは理解する必要があります。そもそも、彼らは兄弟が少なく、親に対して強く表現したりする欲求とか必要とかがあまりない環境で育ってきました。たとえば、兄弟が多ければ、「ケーキ!」と言ったところで親からは無視されるのが関の山です。しかしいまは少子化で、やさしい母親なら子どもが「ケーキ!」と言えば、さっとケーキを出すでしょう。そうしたことは、いいところと悪いところがあるというように考える必要があると、僕は思うのです。

 繰り返しになりますが、個人を競わせるようなものが、もう強いモチベーションにはならないんだという強い自覚が、管理職の側には必要だと思います。「俺たちとは違うんだけど、下の世代はそういうふうに育ってきた」と捉えるようになると、社内の雰囲気や風通しがよくなり、管理職の人たちのストレスもずいぶん軽減されると思います。

──世代によってそういう違いがあるということを、理解したうえで若手社員と接するのと、接しないのとでは、コミュニケーションの質も中身も大きく違ってくるということですね。

平田 本当にコミュニケーション能力が「ある人」というのは、コミュニケーションがうまくいかない理由について、何でうまくいかないのかを多角的に考えるはずです。しかし、「あいつが悪い」「こいつはコミュニケーション能力がない」と言ってしまったら、その言った人自身が、すでに思考停止状態に陥り、コミュニケーション能力の「ない人」になってしまっているともいえます。

 ではどうすればいいのか。これまでは個人の能力さえ高めれば、コミュニケーションはうまくなるという、間違ったコミュニケーション教育がされてきました。しかし、コミュニケーションは決して個人の能力だけの問題ではありません。環境を疑ってみるという視点があると、それだけでもずいぶんラクになれます。つまり、職場のシステムや環境を変えるだけでずいぶん変わってくるということも、知識としてきちんと知っておくことが大事なのです。

 たとえば通常の会議を行う以外にも、中間管理職を省いた取締役と新入社員だけの会議、女性だけの会議、管理職一人対若手社員三人くらいの小規模ミーティング、従来から行われていたであろう居酒屋でのコミュニケーションといったふうに、会議のやり方を工夫するだけでも、若手社員のコミュニケーション能力を高める効果は期待できます。意見を言いやすい環境というのは、人によっても実にさまざまだからです。

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