現代新書
コミュニケーション能力の「ある人」と「ない人」【ビジネス篇】
『わかりあえないことから』著者・平田オリザ インタビュー

「最近、部下の考えていることがよくわからない」。日中、オフィスにいて、そんな思いを抱いたことはありませんか。また、家に帰れば帰ったで、「子どもの気持ちがまるでわからない」なんて悩みを、実は抱いているのではありませんか。そうした問題はなぜ起こるのか。このたび、『わかりあえないことから―コミュニケーション能力とは何か』(9月18日発売)を刊行した著者・平田オリザ氏に、その背景と原因を聞きました。

「ロジカル・シンキング」だけで大丈夫なのか

──今回の本は、ちまたに溢れるコミュニケーション論への疑問から書き出してみた、とのことですが、具体的にはどんな疑問を抱いていたのでしょうか。

平田 僕は仕事柄、大企業の管理職や新入社員向けの研修に、講師として呼ばれることが多くあるのですが、そこで聞かされるのは、たいていが愚痴ばかりです。いわく、「近頃の若者はコミュニケーション能力がない」「彼らが何を考えているのかわからない」「新人社員が会議で意見をいわない」といった具合です。

平田オリザ(ひらた・おりざ) 1962年東京都生まれ。国際基督教大学在学中に劇団「青年団」結成。戯曲と演出を担当。現在、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授。おもな著書に、『演劇入門』『演技と演出』(いずれも講談社現代新書)などがある。自身初の小説『幕が上がる』(講談社)が11月刊行予定。

 また、現代の若者たちのコミュニケーション問題について、マスコミからインタビューを受けることもよくあるのですが、多くのメディアが「いまどきの若者のコミュニケーション能力は危機に瀕している」とか「子どもたちのコミュニケーション能力が急速に低下している」といったセンセーショナルな報道をしたがります。

 一方で、僕は現在、大阪大学において、コミュニケーション教育に携わっています。通常、講師としてあちこちの現場に呼ばれる場合、企業なら企業だけ、学校なら学校だけというように、どちらかに偏ってしまうことが多いようですが、僕の場合、それこそ中高年のビジネスマンから就活生、あるいは小中学生まで、本当に幅広い層のみなさんに会うことができるという特殊な立場にあります。

 そんな僕からすると、いまの世の中で危惧されているほど、いまの若者たち、つまり大学生や大学院生のコミュニケーション能力が低いとは決して思えません。なのに、なぜ管理職の人たちやメディアは、そこまで若者のコミュニケーション能力を問題視するのか。そもそも、コミュニケーション能力とは何なのか―そうした違和感や疑問が僕の中にあったのです。

──たしかに、新卒採用の面接をしているある企業の社員から、「最近の学生は、質問を投げかけてもなかなか会話のキャッチボールが成立せず、一方通行で終わることが多い」といったエピソードを聞いたことがあります。

平田 しかし実際、多くの言語学者、社会学者に聞いても、彼らが良心的な研究者であればあるほど、「若者のコミュニケーション能力が下がった」というような学問的な統計は出してきません。

 だからといって、演劇教育に携わっている僕も中高年の一人として、中高年の管理職の人たちが、若者のコミュニケーションについて、物足りなく思う気持ちもわからなくもありません。

 両方とも悪くないのにうまくいかないというのは、世の中にはよくあることで、それはたいていの場合、システムや環境に欠陥があったり、誤解に基づいていたりすることが多いと思うんです。近年、ビジネスの世界では、ロジカル・シンキング、クリティカル・シンキング、グローバル・コミュニケーション・スキルといったキーワードが盛んに喧伝されている中、はたしてそれだけで大丈夫なのかという、劇作家としての直感もありました。では、何が問題で、どうすればいいのか―。そんなことを考えながら、つらつらと書き進めたのが、今回の本なのです。

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