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プロ野球深層レポート これが「野村克也ノート」の核心だ
巨人の橋上秀樹コーチ、日ハムの栗山英樹監督、ヤクルトの小川淳司監督みんなあの人の教えを受けていた

2012年10月21日(日) 週刊現代
週刊現代

 今ではリトルリーグでもノートを取るらしい。野村ヤクルトが初の日本一に輝いてから20年。「ノムラの教え」は、知らぬ間に日本球界の隅々にまで浸透している。みんな、あの人に教わったんだ。

見逃し三振ならOK

 打率と打点の2冠王、今季MVP確実の巨人の4番、阿部慎之助が、試合前に必ず手を合わせ、頭を下げる人物がいる。橋上秀樹戦略コーチ。肩書はコーチだが、登録はスコアラーのため、ユニフォームではなく球団のジャージを着てベンチに入る。

 昨オフに清武英利前球団代表によって設立された「戦略室」に所属する橋上コーチは、阿部だけでなく長野久義、坂本勇人といった主力選手からも、「神様」とまで崇められ、圧倒的な強さを見せつけた巨人の「陰の功労者」と目されている。理由は、打線の立て直しに成功したことにある。

 一昨年までの巨人打線は、小笠原道大やラミレス(現DeNA)らを筆頭に、技術とセンスである程度の成績が収められる選手ばかりだった。しかし昨季からの『飛ばないボール』導入で、小笠原は出口の見えない不振に沈み、今季序盤は長野や坂本までスランプに陥った。

 主力が不振に喘いだ巨人は、開幕直後に最下位へ転落。5月には、借金も最大7にまで膨らんでいた。

 皮肉にも、それが呼び水となった。安田学園の後輩でもある阿部が、ワラにもすがる思いで、橋上コーチに助言を求めてきたのだ。

「キャッチャーなんだから、自分が『打者・阿部慎之助』と対戦する時をイメージするんだ。どう攻める?」

 橋上コーチは阿部に、「相手の視点」をもつことを切々と説いた。対戦する投手の心理状況を想像し、シミュレーションする大切さを、自覚させる必要があった。

 ヤクルトなどで主に外野手として活躍した橋上コーチは、現役時代に8年、楽天でヘッドコーチとして3年、野村克也氏の横で野球を学んだ経験がある。橋上コーチが説く、データを分析し「考える野球」は、言うなれば「弱者のための野球」だ。巨人のような金満チームに弱小球団が勝つために、野村氏が作り上げた、「弱点をつく」「より確実な手段を選ぶ」という野球だ。

 橋上コーチは、「幸いなことに、ジャイアンツには、12球団でも一、二を争う情報収集能力があった」という。巨人では、1週間に1度、敵チーム投手陣、打者に関する莫大な量のデータが集められる。各カウントでの投球傾向や、球種の割合から、クセまで様々だ。

 問題は、そのデータの活かし方を、「勝者の野球」に慣れた巨人の選手に、どのように伝えるかにあった。

 行き場をなくしかけていた橋上コーチにとっても、阿部を再生することこそ巨人での生きる道だった。そんな中、橋上コーチは阿部にこんな助言も与えた。

「見逃し三振ならOKだ」

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