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進む中国離れ「ベトナム、ミャンマーのほうが安心だ」
チャイナリスク

珍しく物思いにふける習近平氏。次期国家主席の座を約束されているが、その力量を不安視する声も多い

「中国国内の雇用を支えるには最低でも成長率8%が必要と言われているのですが、今年4~6月期は3年ぶりに8%の大台を割った。経済制裁で日本企業が逃げ出せば、さらに景気が減速し、雇用も厳しくなる。反日政策を取り続けると、自ら首を絞めることになります」

 こう指摘するのは、民間シンクタンクのアナリストである。中国の主要都市で荒れ狂った反日暴動は、表面上はおさまったかに見える。が、10月1日にも尖閣諸島周辺では中国の監視船4隻が日本の領海に侵入し、日本企業や日本人に対する嫌がらせが続く。広州市の日系コンサルタント会社に勤める男性が言う。

「突然、事務所に見知らぬ中国人が4~5人押しかけて来て、『ここは日系企業だろう』と詰め寄り、納税はしているか、就労ビザは取っているのか、外国人居留証明はあるかなど、専門家並みの質問をたたみかけてきた。オフィスはビルの高層階にあって分かりにくいはず。当局が裏で糸を引いているとしか思えない」

「愛国無罪」を掲げた蛮行の爪痕はいまなお残る。それでも、徐々に操業を再開し始めた日系企業も多い。例えば、反日デモで山東省の青島、江蘇省の蘇州の2工場を襲撃され火災被害にもあったパナソニックは、「青島と蘇州の工場は9月21日から、広東省珠海の工場は25日から操業を再開した」(広報部)と言う。

 パナソニックと言えば、アジア全域で120の工場を持ち、そのうち70が中国にある。従業員数も中国だけで約8万人で、日本国内の約5万人を大きく超える。中国にとっては最上級のお客様なのだ。

 が、暴動後、便乗したかのように各地で起きた賃上げストで、操業停止に追い込まれる企業も相次いでいる。依然として反日感情が燃え盛っているのだ。

反日デモでは、日本車が破壊活動のターゲットになった。ホンダ車を叩き壊す男は自分のクビも絞めている

 コンサルタント会社「ソフトブレーン」創業者で、現在は同社のマネジメント・アドバイザーを務める宋文洲氏が言う。

「最近、3年も待ってようやく中国政府から営業の許可が下りたけれど、進出しようかどうか迷っている、という相談を受けました。事態は深刻です」

関税撤廃という魅力

 13億人という中国の巨大マーケットは無視できない。すでに上海の旗艦店などで成功を収めているユニクロは、反日デモ後も中国に出店を増やす計画を打ち出すなど強気だ。しかし、安い人件費だけを目当てに進出したメーカーなどが、より安全で人件費が安い国に逃げ出すのは当然だ。日本企業の新たな進出先として人気なのは東南アジア諸国だ。

「今年1月時点でベトナムに進出している日本企業は1542社。業種別では製造業が725社でトップです。ベトナムの利点は人件費が安いこと。そして、東南アジア諸国は低関税の貿易協定を結んでいるので、輸出入がしやすく、国をまたいで部品を調達しやすい。中国やタイ、今後の伸びが期待できるカンボジアなどの市場に隣接していることもメリットです」(帝国データバンク・産業調査部)

 今年1月、ベトナムに子会社を設立し、現在、工場を建設中のハウス食品は、ベトナム進出の理由をこう説明する。

「ベトナムの工場で作ったものは、当面はベトナム国内で販売する予定です。東南アジアの中でもベトナムは、これから高度経済成長を迎えようとしているところで、平均年齢も若いし人口が9000万人。日本の高度経済成長期のような発展が見込めるのではと考えています」

 広州在住の日系企業幹部はこう言う。

「中国は'00年代に税金の優遇などで沿岸部への企業誘致をはかりましたが、それも終了し、今は内陸部への誘致に転じた。しかし、ベトナムのほうが人件費も安く、沿岸部が空いているならそっちのほうが人気を集めるのは道理だ」

 もう一つ、注目されている国がミャンマーだ。昨年、民政に移管後、急速に経済自由化が進み、各国が競って進出しているのだ。第一生命経済研究所の経済調査部主席エコノミスト・永濱利廣氏が、東南アジア諸国の可能性を解説する。

「ミャンマーの人件費は中国の4分の1。国民性は真面目です。消費市場で注目なのは人口が2億4000万人と東南アジアで一番多く、平均年齢が若く、資源も豊富なインドネシア。ASEAN全体で言うと加盟国は6億人の市場です。通商政策を積極的に進め、'15年には域内の関税が撤廃される。ASEANと中国との関税も撤廃される可能性がある。そうなれば、東南アジアで作ったものを中国の市場に持っていくこともできます」

 すでに国内に工場を戻す動きもある。富士ゼロックスは商業用デジタル印刷機の生産を中国から日本へ移管する。NECレノボは今秋、パソコン生産の一部を中国から日本の工場に移す予定だ。

「中国の今後10年間の経済成長率は7%程度まで落ち込む」と予測する米金融大手もある。経済成長に急ブレーキがかかった状態で、日本企業が中国から逃げ出せばさらにGDPが落ち込むだろう。

 中国は国連本会議で尖閣諸島を固有の領土だと強弁し、ワシントンポスト紙に全面意見広告を出すなど、日本に対するネガティブキャンペーンを展開しているが、我が身の先をどう考えているのか。

 次期国家主席に就任する習近平氏について、ジャーナリストの相馬勝氏は、

「江沢民に引っ張り上げられただけの次期トップにすぎない。カリスマ性もなく、一人だけでは舵取りは無理だろう」

 と、不安視する。求心力を保つために今後も反日運動を続け、経済成長に陰りが見え始めて国内の統制が取れなくなったとすると……日系をはじめ各国の企業は本気で逃げ出し始め、「世界の工場」はあっけなく崩壊するだろう。このままだと、チャイナリスクは、思いのほか早くやってくることになるかもしれない。

「フライデー」2012年10月12日号より

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