特集ビジネス最前線 今こそ「非常識」を形にせよ
不景気下のヒット商品「発想のヒント」

フライデー

「結局は、誰も実現できなかった新技術を投入しなければ、常識は破れない。思えば、本田社長は我々に『誰も作れなかったものを作れ!』と教え込むために、大金を投じてまで、F1に参戦していたんです」

 浅木さんは考えに考え抜いた。そしてある時、天啓が訪れた。温泉でのんびりしていた時だったという。

「衝突した時、(ダッシュボード下の)エアコンや電気系統の部品がエンジンのスキマに入り込み、衝撃を吸収する仕組みを考えついたのです」

 衝突実験をしてみると、見事、衝突安全性能をクリア。若手は気まずそうにその結果を浅木さんに報告したと言う。

 身近なところにも、さらなるアイデアが転がっていた。「一つのサイドミラーでは運転手の死角が多い」という奥さんの不満を耳にしたのだ。その後、社内の女性陣に徹底インタビューし、死角が極力少なくなるミラーなどを開発。7月には「介護兼用車」としても使える改良車「N BOX +」を世に出した。特長は、車体後部の床が斜めであること。自転車や車いすなどを荷室に入れやすくした工夫も、浅木さんのアイデアだ。

「誰も作れなかったものを作る」---。浅木さんは、今回のヒットで創業者の言葉を若手研究者たちにしっかりと伝えた。

〝隠れた不満〟を掘り起こせ
クルトガ 三菱鉛筆

「シャープペンの一種」ではなく、「クルトガ」という文房具として認識してほしいと中山さんは思いを語った

「この商品のヒットで学んだのは、どれだけ成熟した商品も必ず改良の余地があるということですね」

 三菱鉛筆横浜研究開発センターの中山協さん(46)はこう振り返る。'08年の初代モデル発売から、1年で300万本を売ったシャープペン「クルトガ」。開発した三菱鉛筆のシャープペン市場でのシェアを、6位から首位に押し上げたこの商品が、今年ついに、シリーズ累計販売本数2000万本を突破した。アメリカのアマゾンでも224件ものレビューがつき、平均評価が4.5(最高5)という異例のヒット商品である。このヒットのおかげで、三菱鉛筆は、 '11 年12月期、65億円以上という過去最高益を叩き出した。

 ユーザーが感じている不満を解消するのが商品開発の基本だが、ユーザーも気づいていないような、「隠れた不満」を掘り起こすことでヒットしたのがクルトガだ。クルトガは、その名のとおり、字を書いている最中に、芯が「クルクル」回って、常に先が「トガった」状態を保つ。芯の一側面だけが減る〝偏減り〟が防げ、心地いい書き味が続くのだ。

 秘密は本体内部に組み込まれた複数のギアにある。文字を書く時の筆圧で、ギアが回転。それが芯に伝わり、芯も少しずつ回転するという仕組みだ。