特集 波高し! 野田政権
野田民主VS安倍自民 どうなる「近いうち解散」
不透明な秋政局

民主党本部で記者会見する野田佳彦首相=東京都千代田区で9月24日

 民主党代表選で再選を果たした野田佳彦首相は党執行部人事と内閣改造を断行し新たな政権の態勢を固めた。しかし早期の衆院解散・総選挙に否定的な輿石東幹事長を留任させたことは、消費増税をめぐり離反が相次いだ党内情勢の深刻さを改めて映し出した。一方、新総裁に安倍晋三元首相が就いた自民党は「近いうち解散」の約束実行を迫り対決姿勢をいっそう強める。政局の混迷が続く中で、赤字国債を発行するための特例公債法案の成立や1票の格差是正、社会保障制度改革など重要政策が置き去りになっている。さらに「領土」を巡る日本と中国、韓国など近隣国とのこれまでにない緊張は長期化の様相を見せている。秋の臨時国会に向けて野田政権は荒波の中での船出だ。

 民主党代表選(9月21日)で7割以上のポイントを獲得して圧勝した野田首相の表情は硬かった。

「責任の重さを改めて感じている。私心は全くない。私には今、笑顔がない。皆さまの力を政権運営に、党運営に結集していただきたい」

 1年ほど前に党代表に選出された時は「ノーサイドにしましょう、もう」と、当時の小沢一郎元代表らとの確執に終止符を打ち挙党一致を呼び掛けた。しかし結局、消費増税をめぐり、亀裂は修復不可能になり小沢氏のグループは党を割り「国民の生活が第一」の結党に至った。

 さらに、橋下徹大阪市長が結党した「日本維新の会」に合流するために離党する議員が相次いでいる。9月末時点で、連立を組む国民新党の3人を加えても衆院の過半数(欠員2を除く239議席)割れまで9議席に迫っている状態だ。

 輿石幹事長は当初、小沢氏とのパイプ役を期待されて参議院からの異例の起用だった。当初の党内融和路線が破綻したことで幹事長交代論がささやかれていた。次期総選挙の司令塔になるだけに党内実力者の仙谷由人政調会長代行などの名前が浮上していた。

 だが、野田首相は「1年間ずっと輿石氏とペアを組み、本当に懸命に助けていただいた」と再選が決まると真っ先に輿石氏の再任を要請。内閣改造の1週間以上も前に党役員人事を固めるという異例の対応をした。「離党予備軍」がまだ控えているとみられる党内情勢も含め、それだけ野田首相の2期目の政権運営が厳しいことを象徴している。

 10月下旬にも召集が見込まれる秋の臨時国会では、先の通常国会で首相問責決議を突き付けた自民党など野党は、早期の解散を野田首相が確約しない限りすんなりとは審議に応じない可能性がある。重要法案で〝人質〟になっているのは、すでに半年が経過している今年度予算の赤字国債発行のための特例公債法案だ。政府は予算執行抑制で当面乗り切ろうとしているが、このままでは財源が枯渇するのは明らかで野田政権が窮地に追い込まれるおそれがある。

 一方で、解散・総選挙をできるだけ先延ばししたい多くの民主党議員の意向をくみ組織維持に重点を置く輿石氏の続投は、野田首相が明言した「近いうち解散」の約束履行を求める自民党など野党を強く刺激している。先の通常国会でも野党は輿石氏の対応に不信を募らせており、国会運営に支障をきたすと懸念する声が民主党内にもある。

 細野豪志環境相兼原発事故担当相の政調会長への起用も大きな波紋を広げた。昨年3月の東京電力福島第1原発事故が発生した時から首相補佐官、担当相として政権の中枢で対応に当たってきた。若さと能力、知名度も高く民主党の次のリーダー候補の筆頭格だ。「選挙の顔」として党勢挽回のキーマンとしての期待がかかる。

 党代表選では一時、選挙での生き残りを心配する若手議員らから野田首相への対抗馬として立候補を要請された経緯がある。本人も「真剣に考え抜いた」。その理由として自身のブログで「福島のことをないがしろにすることは許されないという思い」を挙げていた。政調会長就任については「福島に専念できるのか」という批判も出た。本人はそれを意識してか、早速24日に福島県庁に佐藤雄平知事を訪れ「十分な成果が出ていない中で、こういった形になってしまったことは本当に心残りで申し訳ない。だが必ず福島の復興にこれからも寄り添う」と釈明する場面もあった。

 ところが、その直後の25日に細野氏自らが主宰する勉強会を発足するための勉強会が国会内で開かれた。代表選で擁立に動いた若手・中堅が中心だが早くも「ポスト野田」をにらんだ動きとみられている。新たな野田政権は足元でもスタートから揺らぎ始めているようだ。

政権奪回へ攻勢強める自民党

 自民党は9月26日の総裁選で、安倍晋三元首相が再び総裁に選出された。06~07年に首相を務め、病気を理由に政権を投げ出すように辞任していて以来5年ぶりの再登板。自民党結党以来、総裁経験者が返り咲くのは初めてだ。

 総裁選では、石破茂氏が道府県連や党員・党友に割り当てられた地方票(300票)のうち165票を獲得し一般の支持を多く集めた。国会議員だけの決選投票で安倍氏が逆転した格好だが、派閥の論理が生きている永田町と一般支持者の思いにギャップがあることが浮き彫りになった。安倍氏は「自民党議員のバランス感覚」と受け止めたが「総裁選中から石破氏の人気が高いことが感じられた」とし、次期総選挙を意識して石破氏を幹事長に起用し臨戦体制を組んで政権奪回を目指す。

 安倍氏は税と社会保障一体改革を巡る民主、公明両党との3党合意について、「自民党の理念が組み込まれており、野党としては大きな決断だった」と「進めていく」考えを示しているが、特例公債法案の扱いについては「無駄遣いをなくすための組み替え要求に応じるべきだ」と、前提条件を強調する。

 また経済政策では増税よりも経済成長を重視する「上げ潮派」とみられる。財務相を経験し消費増税による財政再建を重視した谷垣禎一前総裁との路線の違いがある。野田首相にとっては「ケミストリー(相性)」が合うと言われた谷垣氏よりやりにくい、との見方が政権内部から出ている。

自民党総裁選後、記者会見する安倍晋三新総裁=東京都千代田区の同党本部で9月26日

 外交・安保では安倍氏はタカ派だ。「民主党政権によって外交敗北と言われている。まずは外交・安全保障を訴えていきたい」とし、「領土」を巡る中国や韓国との関係について「断固として島を守る意思を示す」との考えを表明している。

 旧日本軍による従軍慰安婦問題で強制性を認めた93年の河野洋平官房長官談話の見直しを明言するなど、歴史認識の保守色を打ち出しており、中韓両国は警戒を強めている。

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