新規就農者が2年ぶりに上向き
11%増の法人雇用が後押し 国の支援策の効果か[農業]

 高齢化や後継者不足で農業人口の減少が続く中、新たに農業を始める人々(新規就農者)の動向が注目されている。農林水産省の統計によると、昨年は全国で約5万8120人が就農したが、前年比3550人増と2年ぶりの増加で、特に農業法人に就職する形で参入した「新規雇用就農者」は同11%増の8920人と06年の統計開始以来最多になった。国が導入した新たな就農支援策も好評で、農業の衰退に歯止めをかける効果が期待されている。ただ、人材育成の面では不備もあり、官民連携での態勢構築が課題になっている。

 新規就農者には三つの類型がある。(1)農家の子弟が家業を継ぐ「自営農業就農者」(2)他産業から転職する「新規参入者」(3)農業法人などに常勤で雇われる「雇用就農者」――だ。

 普通の「農業後継者」が(1)で、現在も新規就農者の8割を占めるが、その急速な減少が高齢者の引退とともに農業人口を減らす主因になっている。06年には7万2350人の後継者が就農したが、昨年は4万7100人にとどまり、5年間で35%の減少となった。

 一方、「脱サラ就農」や「定年帰農」などと呼ばれる(2)は06年に2180人いたが、昨年も2100人と横ばいだ。「団塊の世代」が退職期を迎えた07~09年も2000人を下回り、農業人口の下支えにはならなかった。

 唯一、顕著に増えているのが(3)の雇用就農者だ。06年の6510人に対し、昨年は8920人と5年間で37%の増加となった。新規就農者全体に占める割合も8%から15%へと高まっている。また、雇用就農者は39歳以下の若年層が66%(新規就農者全体では24%)を占めている点も目を引く。3類型の中で最も将来性のある新規就農者だと言えよう。

 雇用就農が増えている背景には、雇う側と雇われる側、双方の事情がある。まずは08年9月のリーマン・ショック以後、急速に悪化した雇用情勢が挙げられる。製造業やサービス業の現場で「派遣切り」や「雇い止め」といった人員削減の動きが広がり、職を失った人々が転職先を農業に求めるようになった。

 しかし、全く農業経験のない人の就農には高いハードルがある。技術の習得はもちろんだが、農地や住居、農業機械などの確保とそのためのまとまった資金も最低限必要だ。周到な準備の上で就農する脱サラ農家や定年帰農者はまだしも、突然仕事を失った人の場合、そのようなゆとりはないだろう。

 そこで、株式会社や農事組合法人などの農業生産法人に雇われる形で就農するのが最も近道ということになる。将来的には独立した経営を目指す人も、初めは法人で経験を積んでから「のれん分け」する方が現実的だ。

 一方、雇い主となる農業法人の側には人手不足の実情がある。高齢化した農家の離農で耕し手がいなくなった農地を借地などの形で引き受ける法人は多いが、耕作面積が拡大すれば当然、農作業の要員が足りなくなる。

 また、大規模な農業法人だと作物をスーパーや生協に直売したり、個人に宅配する例も多い。当然、配送や在庫・顧客管理、営業活動などを専従で担当する人員も必要になってくる。農産物を自社で加工・販売する「6次産業化」に取り組むとなれば尚更だ。

 こうした変化に農水省も対応している。リーマン・ショックを受けて組まれた08年度の第2次補正予算には、緊急雇用対策の一環として「農の雇用」事業が盛り込まれた。農業法人が新規に人を雇う場合、1人当たり月額9万7000円を上限に、最長1年間の研修費用などを助成する事業だ。

 また、12年度には若手の新規就農者を毎年2万人定着させることを目標に「青年就農給付金」も創設された。これは45歳未満の新規就農者、または就農を準備している人を対象に、最長7年間(準備期間2年+就農後5年間)、年間150万円を支給するものだ。農の雇用事業も助成期間が1年から2年に延長されるなど拡充された。

 農水省にとってうれしい誤算だったのは、青年就農給付金への申し込みが当初予算(104億円)を大幅に上回ったことだ。このため、来年度予算の概算要求では240億円への上積みを求めている。

「質」求められる農の人材育成

 このように新規就農に対する財政的な支援策はかなり充実しているが、まだ「質」の問題が残されている。既に指摘したように、他産業から参入した人が即戦力になれるほど農業は甘くない。せっかく就農しても「体力的にきつい」「給料が安い」「土日も休めず自分の時間が持てない」「農村の生活になじめない」といった理由で短期間にやめてしまう若者も少なくない。

 また、肉体労働だけでなく財務や営業、ITなどのスキルも身に付けるには、従来のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング=働きながら仕事を覚える)方式では限界もある。

 その意味では、新規就農者の増加とともに「農の雇用」をめぐるミスマッチはむしろ拡大しているとも言える。金銭的支援だけでなく、複雑化・多様化する農業経営に対応した人材育成システムが必要だ。

 こうしたニーズの高まりにもかかわらず、10年4月の「事業仕分け」で国の農業者大学校が「廃止」の判定を受け、今年3月に廃校に追い込まれた。68年の開校以来、唯一の国立農業者育成機関として多くの優秀な経営者を輩出してきただけに、短期的な費用対効果の視点で意義を否定されたのは残念だ。

 一方で注目されるのは、民間ベースで来年4月に開校される「日本農業経営大学校」(理事長・浦野光人ニチレイ会長)だ。食品企業や農業団体でつくる一般社団法人アグリフューチャージャパンが運営主体となり、実際の農業法人経営者らを講師に招いて実践的な農業教育を施す。カリキュラムは現地実習を含め2年間で、当初の募集人員は1学年当たり20人と少数精鋭主義だ。

 これまで農業の主役だった昭和一けた世代の引退が加速化し、次代を担う若手農業者の確保・育成という課題はますます重みを増している。民間主体の取り組みだけでは限界もあり、国も強力な人材育成態勢を作り上げていくための政策を打ち出すことが求められている。

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