JAL再上場で「公平な競争論」浮上
公的支援で再建 国交省「ガイドライン」策定へ[航空]

再上場し、始値が3810円をつけたJALの株価を示すボード=東京都中央区の東京証券取引所で9月19日

 日本航空が東京証券取引所第1部に再上場したのに伴い、公的支援と企業再生のあり方に焦点があたっている。公的支援を受けてよみがえった日航が同業他社の脅威となり、「公平な競争環境をゆがめる恐れがある」との批判が高まっているためだ。国土交通省は航空分野で公的支援を受けた企業が公正な競争を阻害しないためのガイドライン策定の検討に着手することとなり、企業の公的支援を巡る議論が活発化しそうだ。

 日航の再建に絡み、公的支援と企業再生のあり方に関する議論が高まったのは、日航のライバル、全日本空輸の伊東信一郎社長の発言が発端だった。伊東社長は5月、定例の記者会見で「公正公平な競争環境を確保してほしい」と訴えたのだ。背景には、その直前に日航が発表し、航空業界関係者が一様に驚きの声を上げた日航の12年3月期連結決算の数字があった。

 日航の同決算の売上高は1兆2048億円で、本業のもうけを示す営業利益は2049億円、最終(当期)利益は1866億円で、利益はいずれも過去最高を達成した。

 世界の航空会社の中でも異例といえる好決算で、全日空の場合、同3月期の売上高は1兆4115億円と収入では日航を上回っていたが、営業利益は970億円と日航の半分以下、最終利益に至っては281億円と日航のほぼ7分の1のレベル。「好業績だと予想はしていたが、いざ数字を見て、『これほどすごいのか』とあ然とした」と全日空幹部は話す。

 日航は業績悪化から10年1月に会社更生法の適用を申請して経営破綻した。金融機関などから5000億円を超える債権放棄を受けたうえ、企業再生支援機構から公的資金3500億円の出資を得て再建を実施。従業員のほぼ3分の1に上る約1万6000人を削減し、不採算路線から撤退するなど大規模なリストラを進めた。

 一方、日航の再建に立ち上がった京セラ出身の稲盛和夫氏(現名誉会長)が部門別採算制度を導入して、コスト意識を根付かせるなど経営改革を実施。「好業績を生み出したのは、社員がコツコツと利益を積み上げてくれた結果だ」と日航は説明する。好業績を背景に、日航は9月19日に東証の再上場を果たし、2年7カ月で株式市場に返り咲くというスピード復帰を実現した。

 しかし日航の利益を底上げしたのは、やはり破綻効果が大きい。金融機関による債権放棄で有利子負債が減少し、12年3月期の日航の支払利息は109億円(全日空は195億円)に過ぎない。また、法人税の減免効果も効いている。税制上のルールで、企業が決算で赤字(欠損金)を出した場合、赤字分を翌年度以降に持ち越して、黒字(課税所得)と相殺できる「繰越欠損金制度」があるためだ。

 欠損金は9年間繰り越せるため、日航は破綻時にばく大な欠損金を出した効果で、今後も長期間、法人税が免除される可能性がある。法人税免除の総額は今後7年間で計3000億~4000億円規模に上るとの指摘もある。

 全日空はこうした日航の実態を重視し、「自助努力で頑張っている我々と、公的支援で大きくなった日航が同じ土俵で戦うのは不公平だ」と反発、公平な競争環境を作るよう、政府に配慮を求めたのだ。

 全日空の主張に自民党も同調し、「政府が不公平を是正する措置を講じない限り、日航は再上場を見合わせるべきだ」と主張した。批判の高まりを受け、羽田雄一郎国交相は、8月初旬に開かれた衆院国土交通委員会の日航再建問題に関する集中審議の場で、「ガイドライン策定の検討をしたい」と発言、政府主導でガイドライン策定に向けた議論が始まることになった。

EUは厳格な指針

 自民や全日空が導入すべきだと主張するのは、欧州連合(EU)が設けている「公的資金支援ガイドライン」のような厳格な指針だ。EU条約107条では「加盟国は公的資金支援で特定の企業を優遇し競争をゆがめてはならない」などと規定している。

 EUは元々、加盟国が公的資金で企業を支援することを「共同市場にそぐわない」として禁止しているのだ。ガイドラインは107条の例外となる場合を規定したもので、まず大原則として「経営不振企業に対する公的資金支援が制度化されることは絶対に認められない」とする。

 そのうえで「救済資金は事業継続に必要な金額に限定しなければならない」「一度支援を受けたら、その後10年間は追加支援を受けられない」「生産能力の削減や市場シェア削減などの補償措置で競争のゆがみを防止・最小化する方策が必須」などという条件をつけている。この指針に基づき、94年にフランス政府が支援を決めたエールフランスは、航空機材の増強や他社の株式取得が禁止されている。

 日本の空では今年、格安航空会社(LCC)が本格参入したが、日航はLCCのジェットスター・ジャパンに出資している。また、今年4月には、最新鋭中型機「ボーイング787」を初導入し、新規路線となる成田―米ボストン線を開設した。こうした動きは、EUの指針から見れば認められないケースになり得る。

 ガイドライン策定の議論は今後、国交省の交通政策審議会に新設する小委員会で始まる見通しだ。メンバーについては、航空関係の学者や有識者をはじめ、内閣府や公正取引委員会なども参加する方針だ。ただ、自民や全日空などが求めているEUの指針をベースにした厳格なガイドラインが策定される見通しが立っているとはいえない。羽田国交相は策定に関し、「いろいろなアイデアを出してもらい、実効性のあるものにしたい」と発言するにとどめ、具体的内容には言及していない。

 そもそも国交省は「日航の新規路線開設や投資を制限する法的根拠はない」としており、公的支援を受けた企業の生産能力や市場シェアを削減するなどEUのような措置は日本では法的に難しいとの見方だ。

 こうなれば、ガイドラインの実効性は乏しいものにならざるを得ない。羽田国交相は既に「16年度までの日航の中期経営計画の期間中は、日航の再生状況を監視し、必要に応じて指導・助言を実施する」などの見解を発表している。「ガイドラインはこれを超える内容にならないのでは」(航空業界関係者)との否定的な見方が少なくない。

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