2012.10.12(Fri)

サービスは
人間関係と同じ。
相手に見えないところで
いかに相手を思うか。
その気持ちが、
良い縁を呼ぶのです。

帝国ホテル 小林哲也

週刊現代
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なるほど

 最初の配属は客室などの清掃をする客室課です。初めての女性客室係で、のちに黄綬褒章を受章された竹谷年子さんの研修が忘れられません。彼女からは「お客様が湯船に入られると目線が斜め上に行く。その視点で汚れを見つけ清掃しなさい」と教えられました。これは、「何でもお客様の視点から見ることが大事」という深い内容を孕んでいると感じ、素直に「なるほど」と思ったことを覚えています。

おかげさま

 ホテルマンはお客様にも育てていただけることが幸せなのだな、と思っています。トイレ掃除の研修を受け、何とかピカピカの状態を保とうとトイレを磨いていると、お客様が「おかげさまで気持ちよく過ごせます」と声をかけて下さったのです。これがまた、胸にこみ上げるものがあるほどうれしかった。だから今も、帝国ホテル内に限らず、トイレの掃除をしている方を見ると、つい声をかけてしまいます。

携帯灰皿

 実は今も、ホテルの中を歩く時、天井が汚れていないか、ゴミは落ちていないかなどを常に意識しながら歩きます。携帯灰皿を持ち歩き、拾ったゴミを入れるのです。昔のJTさんの『スモーキンクリーン』にひっかけ『ウォーキンクリーン』と自身で洒落こんでいます。

月並み

 ホテルマンに向いている若手は、素直で、明るくて、元気がよい人。〝我以外みな師〟と思い素直に学ぶ人が伸びるからです。人間にとって重要な資質は、誠実、謙虚、感謝。すごく月並みでしょ? しかし、この月並みを大事にする若者が伸びるのです。

カントリー 高校時代にカントリーミュージックと出会って以来、夢中に。写真は、パーティーで演奏した時の様子

意識づけ

 健康法は、朝5~6時に起き、1時間程度、自宅の近所の公園などを歩くことです。あと、1日に何度も体重計に乗ることで、ベストの体重を超えないよう、自分自身に強く意識づけています。

同じ轍

 よく読む本は歴史小説です。山本周五郎、司馬遼太郎、藤沢周平……。読んで思うことは、亡国とは驕りの結果だが、人はすぐこれを忘れ同じ轍を踏む、ということです。あとは菊池寛の『入れ札』も忘れられない短編です。人情話が好きな方にはお勧めします。

震災の夜

 社長になってから印象深かった出来事は、東日本大震災の時、帰宅困難者の方の受け入れを決めると、従業員たちが何を言わずとも皆様に水やパンをお出しし、毛布をお配りし、携帯電話の充電器や、情報提供用にテレビモニターを用意し始めたことです。夜中、総料理長が「翌朝、スープをお出ししたい」と言うから「できますか?」と聞くと「やります」と答え、実現してくれました。その後「結婚式をするならここでと決めた」といったありがたいお手紙をいただきました。これも良縁になるとよいな、と思います。

会長

 尊敬する企業人は、渋沢栄一さんです。明治期、500社近くの企業の設立や発展にかかわっています。実は明治23年、政府や各財閥によって帝国ホテルが日本の迎賓館として設立された時の初代会長でもあります。

ブランド

 '03年から'09年にかけて、帝国ホテル本館の改修工事をしたのですが、万一の故障などなきよう、空調設備など、お客様からは見えない設備も一新しました。人間関係も同じですが、相手に見えていないところでも人を思う、その気持ちが良縁を呼ぶと思うからです。今後もこのような思いとともに歴史を守っていければと思います。

取材・文/夏目幸明
『週刊現代』2012年10月13日号より

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